本の紹介−世俗化後のグローバル宗教事情 〈世界編I〉    2022年11月13日
 


藤原聖子・他/著『世俗化後のグローバル宗教事情 〈世界編I〉 (いま宗教に向きあう 第3巻)』岩波書店 (2018/11)
 
13章に渡って、世界の宗教事情を説明しているのだが、この中で、以下の2つの章を読んだ。どちらも20ページ弱。
 
井上まどか/著『第5章 ロシアにおける伝統宗教の変容 ソ連時代の継承と新しい展開』
古田富建/著『世界平和家庭連合(旧統一教会)の歴史と現状 韓国宗教史からの検討』
 
 『ロシアにおける伝統宗教の変容』はソビエト崩壊以降のロシアの宗教事情の説明。 ソ連崩壊後、オウム真理教をはじめ、いろいろな宗教がロシア社会に浸透したが、その後、淘汰されて、正教を中心に政治との結びつきを強めた主要宗教が有利な状況にある。
 現在、大統領府付きの「宗教団体協力評議会」が設置されており、宗教と社会の関係などを大統領へ提言している。 この評議会にはロシア連邦会議長・内務委員長・学識経験者のほか、宗教団体から、ロシア正教会、ロシア正教会古儀式派、アルメニア使途教会、カトリック、 プロテスタント諸宗派、イスラム、ユダヤ、仏教の代表がメンバーに加わっている。現代ロシア社会で、まともな宗教と思われているのが、 ここに挙げた諸宗教・諸宗派ということなのだろう。
 
 『世界平和家庭連合(旧統一教会)の歴史と現状』は統一教会の韓国での歴史や教義を中心に記載されている。 このため、日本での霊感詐欺商法の問題などの記述は少ない。90年代以降の変化に関して興味のある記述がある。

 九〇年代に入ってからの教団の変化を三つにまとめると次のようになる。
 一つ目は、霊的な世界の強調である。「文鮮明こそメシアである」とイエス自身が明かすといった霊界からのお告げ、霊人の救済、神癒といったテーマがこの時期から急浮上したのである。 …九〇年代後半を境に、『原理講論』に代わって、教祖の言葉を集約した『天聖経』が重んじられるようになっている。『天聖経』の半分は霊界に関する記述となっている…。
 二つ目は、二つ目は、韓国ナショナリズム(民族左派)へのシフトである。 …日本に対しては、植民地時代に選民たる朝鮮民族を苦しめた罪を問われ、罪滅ぼしとして韓国と世界のために尽くさなければならないという「反日」「自虐史観」が強調されていく。 …この頃から、「日韓が一つにならなければならない」という名目のもと、日本支部に韓国から幹部が送り込まれるようになる。 彼らは会長をはじめ各地区の長に就き、社会的に批判された霊感商法に代わり、日本人信者への献金の圧力を強めていった。
 三つ目は、「独自的(「異端的」)なキリスト教」から「(もはやキリスト教ではなく)異教」へと立ち位置をずらしたことである。 韓国の既成教会の圧力により教勢を伸ばせなかったこともあるだろうし、メシアとともに「復帰摂理」を進める段落が終了し、ポスト終末の時代という次のステップに移行したともいえる。 キリスト教という立ち位置を捨て、メシアを認めて祝福結婚さえ受ければ、個々人はどの宗教を信じても良いというスタンスに徐々に転換する。 一九九七年には、教団名からもキリスト教を消し、「世界平和統一家庭連合」に改名した。「真の家庭」を作ることで理想社会を建設する教団へと姿を変えている。