尖閣列島問題参考書
松竹伸幸/著「日本の領土問題を考える」 かもがわ出版 (2013/03)
子供向けに、日本の領土問題を易しく書いた本。尖閣問題が話題の時期に書かれたので、尖閣問題の記述が多い。
子供向けの本は、相互に矛盾のある記述や、事実と異なる記述は良くない。
尖閣に関連して、P18,19に以下の記述がある。
尖閣諸島について書かれたものとして、いちばん古いのは、『順風相送』という中国の航海案内書だといわれています。これが書かれた時期は、15世紀とも16世紀ともいわれ確かではありませんが、日本の資料に尖閣諸島が最初に登場するよりもかなり前であることは確かです。
しかし、尖閣譜島が中国の文献に先に登場したことはまちがいなくても、それだけで尖閣諸島が中国の嶺土であるとはいえません。
なぜなら、ある土地が歴史的に、ある国の領土だとするには、その国が、その土地を自分の領土だと考えていたという証拠がなければなりません。ところが中国の昔の文献を見ても、尖閣諸島を自国の領土だとする記述はありません。
歴史的な領有権に、国家の領有意識が必要とする説と、そうではないとする説があるが、著者は、断定的に、「領土の領有権主張には、その国が、その土地を自分の領土だと考えていたという証拠」が必要と説明している。それならば、著者は、竹島問題においても、日本が歴史的領有権を主張するならば、国家の領有意識が必要とすべきだろう。ところが、竹島問題に関連して、P6に、次のように書いている。
竹島は、この欝陵島に行くとちゅうにあったため、船の進路の目標となり、漁場として利用されたこともありました。これらの記録は、当時の鳥取藩などの文書に残っています。
こうした事実があるので、竹島は当時から日本の領土だったという考え方があります。
もし、著者の主張が、領有には、「その国が、その土地を自分の領土だと考えていたという証拠が必要」とするのであるならば、「船の進路の目標となり、漁場として利用された」だけでは、領有の根拠とはならない。それにもかかわらず、「島は当時から日本の領土だったという考え方があります」と書いてしまっては、著者の説明は、いい加減でデタラメであるとしか判断できない。
P20の次の記述もいい加減だ。
国連アジア極東経済委員会の調査で海底資源の存在がわかったあと、1970年代のはじめに台湾と中国は、尖閣諸島の領有権を主張します。それまで中国をふくめどこの国も、日本の領土であることに異議を唱えたことはなかったにもかかわらず、資源があることがわかったとたん、自国の領土だと主張しはじめたのです。
高橋庄五郎/著「尖閣列島ノート」によると、1961年、東海大学の新野弘教授(地質学)の「東中国海および南中国海浅海部の沈積層」という論文が発表され、海底に豊富な石油と天然ガス埋蔵の可能性を指摘されている。その後、色々な調査があって、石油埋蔵の可能性が指摘されて来るのであって、「資源があることがわかったとたん」などと、断定できるものではない。
沖縄返還以前は、尖閣周辺海域には、台湾の漁師が出漁していた。
P32には、一見するともっとものようだが、もう少し広い知識で考えると、とんでもない主張だ。
尖閣諸島をめぐる対立によって、日中両国の関係全体にも影響がおよんでいます。今大事なことは、尖閣諸島の問題は、両国が実力にうったえるのではなく、話しあいで解決するということを明確にすることです。
そのためにも中国は、尖閣諸島周辺に公船を送るなどの行為をさしひかえるべきでしょう。日本も自衛隊の派遣を口にしたりせず、話しあいの場をつくることが大事です。話し合いの場では、たがいに堂々と、自国の主張をのべればよいのです。
著者は、「中国は尖閣諸島周辺に公船を送るな」「日本は自衛隊を派遣するな」と書いているので、一見すると公平に感じるかもしれないが、「公船を送るな」と「自衛隊を派遣するな」では、大違いだ。著者の主張は、要するに、「日本が公船を派遣して、中国船を取り締まれ」「中国は、日本に従え」と言っているのことになり、日本の主張を押し付けるべきとしているにすぎない。それに、領土問題の存在を認めず、領土の話し合いを拒否しているのは、日本政府であるので、この点を問題にしないならば、日本の主張を無条件で認めろと相手に言っていることであり、これでは、解決はあり得ない。