尖閣列島問題参考書

『尖閣一触即発 中国の圧力を跳ね返すことが出来るのか』
 山田吉彦、井上和彦/著 (2013/4/19) 実業之日本社





 全6章のうち、3つの章が対談。山田の解説が1章、井上の解説が2章。二人は、もともと意見が近い人なので、対談ではあっても、一人の解説のようで、読みやすい。本書は、全体として、中国脅威を唱えるものなので、この問題に関心のある人には、ある程度、役に立つのかもしれない。尖閣問題の歴史的経緯等の解説本ではない。

 著者らの中韓に対する認識は甘いのではないだろうか。

 いずれにせよ、中国軍のこうした挑発行為は、武力衝突を招きかねない極めて危険な行為です。その理由は、中国の兵器の信頼性に問題があるからです。中国軍が運用する中国製兵器は、そのほとんどが欧米露などの外国製兵器を模倣したような"コピー兵器"です。海外の兵器や機器を入手し、これを分解調査して完成品を作る"リバースエンジニアリング"による兵器だから信頼性に疑問があるわけです。
 そもそも携帯電話が通話中に突然爆発したりするなど、家電製品ですらまともに作れない国が、こうした科学技術の粋を結集したハイテク兵 器を本当に作れるのかということです。中国版パクリ新幹線の事故や手抜き工事などが、その現状をなにより雄弁に物語っているのではないでしょうか。
 もっとも中国軍の兵器は確実にハイテク化しているので決して侮れないのですが、私が懸念しているのは"誤作動"が起きる危険性です。少なくともその確率は、自前で兵器を製造出来る列国に比べてはるかに高いと思われます。(P18)

 「家電製品ですらまともに作れない国」とは、いったい何を考えてるのか。日本の家電製品に中国製はかなり入り込んでいます。一昔前の中国観に凝り固まった頭で、現在の政治情勢を考えてはいけない。中国は、有人宇宙船を打ち上げていることを忘れてはならない。日本の最先端研究所には、中国人がたくさんいます。そういう事実を知らないのかな。

 韓国は若手の優秀な研究者というのが海外に流出したまま帰らない国なので、最先端技術というのは創り得ないのです。ノーベル賞みたいな賞に達するような研究者というのは韓国では少ない。国内ではそれを適切に処遇する環境になっていないことと、儒教の影響で年配の教授の影響力が強いので、若い研究者は伸びないのです。それはいくつかの研究成果の捏造事件などに表れています。
 韓国の優秀な学者は1回アメリカや日本に出たら帰国したがらない人が多いようです。例え帰ってきてもすぐにまた出ていきます。(P104)

 欧米に比べると、日本のノーベル賞受賞者はものすごく少ないので、韓国に「ノーベル賞みたいな賞に達するような研究者」が少なくても、 驚くに値しない。日本の研究所で研究成果を上げて、韓国に帰る若手技術者は、多いですよ。サムソンなど経営好調なので、優秀な技術者を抱えるようになっています。

 国際法の説明もいい加減だ。

 まず、占有には3つの過程があります。第1段階が不法占拠です。これは、例えば1952年に韓国の当時の李承晩大統領が勝手に引いた李承晩ラインで、1954年に竹島を韓国が武力で占拠したケースです。また、ロシアが北方四島で1945年、第二次世界大戦後すぐに入って占拠したことも同じで、いずれのケースも不法占拠に当たります。武力などで、ある地域を一方的に占拠してしまうのを不法占拠と言います。(P80)

日ソ共同宣言が審議された、昭和31年11月29日の国会で、下田武三政府委員は「従来は、これらの島々に対するソ連の占領は戦時占領でございました」と、当然の説明をしている。戦争中の占領は「不法占拠」にはならないので、著者の説明は誤りだ。もし「戦争は不法行為だから、日本の台湾占領や南樺太の占領などもふくめ、不法占拠だ」との理論ならば、そのように説明すればよい。

 この本は、学問的成果の公表ではなく、一般大衆に働きかけることを目的として書かれたので、厳密正確性を求めるものではないのかもしれない。尖閣問題を冷静に理解しようとする人は、別の著書を読んだほうが良さそうだ。


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