尖閣列島問題参考書


中国が耳をふさぐ尖閣諸島の不都合な真実 石垣市長が綴る日本外交の在るべき姿
中山義隆/著 ワニブックス (2012/12/21)





 本のタイトルは「中国が耳をふさぐ尖閣諸島の不都合な真実」となっているので、中国に不都合な真実が書かれているのかと思ったら、そうではなくて、これまで、日本政府が主張していることの焼き直しが多く、特に新味のある研究成果があるわけではない。

 嘘をついて、市民を扇動するだけの本のようにも見える。P72に以下の記述がある。

 中国や台湾の主張に対しては、「尖閣諸島は日本の領土であると『日清講和条約』でも『サンフランシスコ講和条約』でも明確に記されている」という反論だけで十分に論破が可能でしょう。

 著者は「明確に記されている」と書いているが、日清講和条約・サンフランシスコ講和条約のどこにも「尖閣諸島は日本の領土である」とは記されていない。
 ただし、サンフランシスコ講和条約では、尖閣には触れられていないので、尖閣は日本に残される領土であるとの解釈する人もいる。著者は、このような解釈を聞いて、「明確に記されている」と誤解したのかもしれない。もし、そうだとすると、条約原文を読む能力がなかったのだろうか。
 著者の経歴を見ると、近畿大学経営学科卒であり、ここの駿台予備校偏差値は47程度なので、勉強は出来なかったのだろう。石垣市は、もう少し、能力のある人に頼んで、尖閣問題を研究したほうが良い。

 領土問題は外交問題なので、本来は国家の問題であるが、学者が歴史研究や政策提言することもある。本書は、このような立場ではなくて、地元の市長による記述。市長には外交権限はないので、領土問題は無関係のようにも思えるが、実際には、そうではなくて、領土問題によって、地元に国の金を取ってくることが可能になるので、地方や個人の私利私欲のために、領土問題は有効に活用できるものである。このような観点から見ると、地元にとって、尖閣問題は、国民に中国脅威を訴えることなのだろう。本書には、このような視点を感じる。しかし、地元民でない者にとって、地元利益の視点は重要ではないので、本書には、魅力を感じられない。

 著者は、饒舌な政治家なのだろうか。文章は、分かりやすい。特に、尖閣や歴史知識が乏しい人に、訴える効果が大きいように感じる。尖閣問題に対しては、日本政府のパンフレットやホームページが無料で入手できるが、これらのものは、理解が難しい人もいるだろう。このような人でも、本書ならば、それなりに理解可能かもしれないので、低俗漫画しか読んだことがない人が、それを超える知識を得ようとしたときに、本書を読むことは、一定の価値があると思う。


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