尖閣列島問題参考書

山田慶兒/著『海路としての<尖閣諸島> 航海技術史上の洋上風景』 (2013.11) 編集グループSURE

 
 尖閣問題のうち歴史的経緯を理解する上で、欠かせない内容。
 



 中世、尖閣諸島は、中国・琉球の冊封使船や朝貢船の航海上の目印として利用されていた。当時の航海は、どのように針路を決めていたのか、本書では、その技術的内容が説明されている。15世紀初頭、鄭和による大航海があったが、中国・琉球の航海にも、この時の航海技術が受け継がれているとされる。
 中国中世の航海書『順風相送』の成立年代に対する検討もなされている。また、程順則による『指南広義』への言及も多い。
 
 ただし「琉球国の船員」「中国の船員」と固定的に考えているようで、この点には賛成しかねる。たとえば、P100には、次の記述がある。
 『琉球国の船乗りたちは、中国の船乗りたちの針簿によって、航海技術を学んだが、つねに生徒だったわけではない。』
 中国・琉球航海の最初のころは、琉球の船員の多くは中国から移住した人たちだった。さらに、時代が下がっても、琉球船の船長や、航海士の多くは、中国人の末裔や移住者だった。また、琉球に居住した中国人の末裔たちの中には、中国に帰った人もあったようだ。

 P120には、「琉球はれっきとした独立国です」と書いているが、政治活動の宣伝ならともかく、研究者・技術者の書く文章としてはいただけない。中世の琉球は中国と冊封関係にあったため、形式的には中国の服属国だった。また、薩摩藩の侵攻以降、実質的には、薩摩の支配下にあったので、名実共に、完全な独立国といえる状況にはなかった。著者が、何を持って「れっきとした独立国」というのかを明確にしない限り、自分の言葉に酔った記述になってしまうだろう。

 本書には、このような問題点があるので、領土問題を考える上では、十分な記述とは思えないが、当時の航海の実情を理解し、尖閣問題を考える上で、好適な参考書と言えるだろう。


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