本の前半は、孫崎氏による尖閣問題解説。後半は、孫崎氏を含む数名の専門家との対談。
前半、孫崎氏の尖閣問題解説は、領土問題はどのように解決すべきかとの、外交的視点で尖閣問題について書 いている。尖閣問題の歴史的経緯などは少ない。
領土問題は、決まった土地を両国でどう分けるのかとの問題なので、どちらかがより多く取ると、一方は少な く取ることになる。言い換えれば、ゼロサムゲームである。これに対して、経済は、お互いの不足を補うため、 両者が勝者となる。戦争は、どちらが勝つにしても、両者ともに悲惨な破壊を受けるため、どちらも敗者の可能 性が高い。昨今の尖閣問題の先鋭化は、石原の尖閣買取に始まったものであるが、争いを仕掛けて、中国を敗者 とする目論見が会ったのかもしれない。より大きな敗北を中国に味あわせるためには、多少の損を日本がしても かまわないとの考えもあるだろう。
孫崎氏の主張は、尖閣問題を棚上げして、日中ともに勝者の道を歩むべきとの原則の下、どのような外交をす ればよいのか、このような視点での解説である。
中国が尖閣に攻めてきても、米国が日本のために戦ってくれるから、日本は無傷で必ず勝つだろうなどとの甘 い幻想を、孫崎氏は、きっぱり否定する。日本の利益のためには、日中相互発展以外に方法はないのだ。
なお、本書は、外交的解決策に主眼が置かれているので、尖閣を取り巻く条約・協定の説明は少ない。こちら に対しては、 孫 崎享/著 「日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 」(ちくま新書 905) が、参考になる。
後半は、
小寺彰・天児慧・孫崎享・3氏による日中両国の尖閣問題主張の検証に関する対談
石川好・宗文州・孫崎享・3 氏による外交政策に関する対談
羽場久美子・岩下明裕・孫崎享・3氏による国境問題解決策の対談
の3つの 対談が掲載されている。
小寺・天児・孫崎氏の対談では、日本は尖閣棚上げに合意したのか、尖閣は領土問題か、との点で、見解が相違している。しかし、日中共同宣言のときに、尖閣問題を話し合わないことに合意したことは事実なので、「棚上げ」をどのような意味で使うのかという、言語の問題に過ぎないだろう。そもそも「棚上げ」は国際法上の用語ではないので、政治的に、国内向けに、お互いが都合の良いように解釈する単語であるので、両国が対立する ように、用語の意味を解釈する必要はないのではないか。解釈の違いは、外交関係を重視する孫崎氏と、他の2氏との、立場の違いのように感じる。
他の2件の対談では、孫崎氏は司会進行役。羽場・岩下の両氏は、国境問題解決が専門なので、各地の国境問 題を参考に、尖閣問題に対する解決策を考察している。両氏の見解は、尖閣に限らず、日本の領土問題解決を考える上で、参考になる点が多い。