尖閣問題参考書

矢吹晋/著 「敗戦・沖縄・天皇 尖閣衝突の遠景」 花伝社 (2014/8)



 尖閣問題の本として読むと、面白くない。
 本書著者はこれまで、「尖閣問題の核心―日中関係はどうなる(2013.1)」「尖閣衝突は沖縄返還に始まる―日米中三角関係の頂点としての尖閣(2013.8)」と尖閣問題関連の著書を出版してきたが、だんだん面白くなくなってきた。

 著者は、前書において、尖閣問題の出発点を沖縄返還と捉える論を展開した。本書では、出発点をサンフランシスコ条約としている。尖閣問題の出発点はどこにすべきかということはなくて、その人のその論で、どの時点から問題を考えるかということなので、本書のようにサンフランシスコにしても良いし、沖縄返還にしても良いだろう。

 本書は2部構成で、このうちの第1部で、サンフランシスコ条約と天皇の役割を考察し、尖閣問題にも言及している。内容は、サンフランシスコ条約と天皇発言の概要を説明したのちに、豊下楢彦氏の著書の批判している。尖閣問題については豊下批判のみ。豊下説に関心が高い人が、豊下論文を検討するために本書を読むのは良いかもしれないが、そうでない人にとって、本書がどれほど有益なのか、疑問だ。
 第2部は、朝河寛一の天皇制議論の解説で、領土問題とは関係ない。

 以下、第一部について。
 本書、第一部では、多くのページを豊下楢彦氏の著書の批判にあてている。
 豊下説について、私も疑問を感じた点はあったが、本書によって、それがすっきりした感じはしなかった。特定の学説を批判するならば、もう少し、詳しい論を展開するか、参考文献を掲載してくれないと、言葉尻をとらえた議論のように感じ、素人の私には、どちらが正しいのか判断できない。

 1947年9月、昭和天皇・裕仁は、GHQに対して、米軍が沖縄の軍事占領を続けるにすることを求めた。裕仁の要望に対して、W.J.シーボルトは、以下のコメントをしている。

 It will be noted that the Emperor of Japan hopes that the United States will continue the military occupation of Okinawa and other islands of the Ryukyus, a hope which undoubtedly is largely based upon self-interest.  (日本の天皇は、米国が沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を続けるよう希望していること、これは、疑いなく、多いに私利に基づく希望であることが注目される。)

 本書P99では、「これが主として国益(self-interest)に基づいた希望であることは疑いない」と訳しているが、self-interestは、通常の訳では、国益の意味ではなくて、私利・私欲・利己心などの意味であるので、このままでは、著者の説は、誤訳もしくは曲解である。特別な理由があって、self-interestを「国益」と訳すならば、その理由を示す必要がある。

 サンフランシスコ条約で日本は独立し、沖縄はアメリカの統治となったが、その後、日本に復帰する。沖縄が、日本に復帰した理由について、著者は、サンフランシスコ条約の文言解釈に原因を求めているようだ。現実政治を見ていないのではないだろうか。沖縄が本土に復帰した理由は、いろいろあるかもしれないが、現地住民の意思を忘れることはできない。もっと言えば、占領統治下の反米運動が理由としてあげられる。著者の説明では、サンフランシスコ条約で沖縄と同様な扱いになった奄美群島が平和条約直後に本土復帰した理由が理解できないだろう。沖縄の返還も、現実政治戦略と住民統治の関連で実施されているのであって、条約の文言を学者が解釈した結果で返還されたのではない。

 尖閣問題は、第5章の23ページのみ。内容は、豊下楢彦/著・尖閣問題とは何か(岩波書店)の批判。豊下説が日本の尖閣問題政策に重要な役割を演じているならば、批判も価値があるものだろう。しかし、豊下説は一つの説に過ぎず、豊下氏の著者は、数ある尖閣問題の解説書の一つにすぎない。しかも、北方領土や他の領土問題の解説も多く、尖閣問題がそれほど詳しいわけでもない。著者は、豊下説を、日本外務省やそれに追随する御用学者説と同様としている(P166)。確かに、そうかもしれないが、それならば、日本外務省の説を批判すればいいのにと思ってしまう。日本外交において、豊下氏が、日本外務省よりも影響力を持っているならば、豊下説批判もうなづけるのだが。。。
 


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