尖閣列島問題参考書

井上清/著 『「尖閣」列島 ― 釣魚諸島の史的解明 』

現代評論社(1972/10) 第三書館(1996/10)
2012年の新版も同じ表紙デザイン


現代評論社(1972/10) 278ページ
第三書館 (1996/10) 153ページ
第三書館; 新版 (2012/10) 153ページ

 日本史が専門の井上清教授による、歴史的見地から見た尖閣問題。尖閣問題は、日清戦争以前と、下関条約以降沖縄返還までと、沖縄返還以降とに分けられるが、本書は、日清戦争以前の史実を明らかにして、この時代、すでに、尖閣は中国領だったと説明している。歴史学者の著書なので、史的立場の見解。

 1970年ごろ、沖縄返還の気運が高まり、尖閣が米国統治から離れることが現実化すると、日本・中国・台湾の間で、尖閣領有権問題が発生した。紛争が表面化したのは、1970年7月、アメリカの石油会社パシフィック・ガルフに対して、台湾政府が尖閣周辺海域を含む海底油田の探査・試掘件を与えたことに始まる。当時、日本では、与野党やマスコミを揚げて、尖閣列島は1895年以来、日本が、無主地を先占した日本領であると主張した。
 著者は、このような日本の主張に対して、歴史的真実、および国際法理上を明らかにすることが先決であるとして、1972年ごろからいくつかの論文を発表した。

 1972年に現代評論社から出版された本は、前編で尖閣史・尖閣問題を取り上げ、後編で沖縄史・沖縄問題を取り上げている。本書前編は、『中国研究月報』1972年6月号に発表した『釣魚諸島の歴史とその領有権(再掲)』をいくらか整理しなおしたもの。後編は、1962年、1968年、1971年に発表した論文、4件。
 尖閣は中国と琉球の交易ルートにあたり、中国と沖縄が関係を持ってきた島であり、明治以前の日本は、関係を持ったことがなかった。このため、尖閣の理解には、ある程度の琉球史の知識が必要であるので、第2編が第1編と無関係というものではない。

 1972年9月、日中国交回復があり、交渉の過程で、尖閣問題は棚上げされたため、領有権問題は一時凍結された。
 広域暴力団住吉連合小林一家会長で住吉連合本部長の小林楠扶が作った右翼団体・日本青年社は、1978年、尖閣諸島・魚釣島に灯台を建て、さらに、1996年には、北小島にも灯台を建てた。著者は、このような行為を中国への挑発行為と捉え、「24年前の本を再び世に問う」として、第三書館から、再刊した。1972に出版した時には、後編に、沖縄の歴史や沖縄問題を取り上げたが、第三書館版では、後編は割愛されている。

 2012年4月、石原慎太郎東京都知事はアメリカ・ワシントンで、東京都が尖閣諸島を購入すると発表し、日中間の対立が深まった。こうした中、新たに、新書版で、再刊された。


現代評論社はTの1章から15章までと、Uの1章から4章まで。第三書館版はTの1章から15章まで。

T 釣魚諸島の歴史と領有権
1.なぜ釣魚諸島問題を再論するか
2.日本政府などは故意に歴史を無視している
3.釣魚諸島は明の時代から中国領として知られる
4.清代の記録も中国領として確認している
5. 日本の先覚者も中国領として明記している
6.「無主地先占の法理」を反駁する
7.琉球人と釣魚諸島との関係は浅かった
8.いわゆる「尖閣列島」は島名も区域も一定していない
9.天皇制軍国主義の「琉球処分」と釣魚諸島
10.日清戦争で日本は琉球の独占を確定した
11.天皇政府は釣魚諸島略奪の好機を九年間うかがいつづけた
12.日清戦争で窃かに釣魚諸島を盗み公然と台湾を奪った
13.日本の「尖閣」列島領有は国際法的にも無効である
14. 釣魚諸島略奪反対は反軍国主義闘争の当面の焦点である
15. いくつかの補遺

U 日本歴史のなかの沖縄
1.日本歴史のなかの沖縄
2.「琉球処分」と土地改革
3.「沖縄差別」とは何か
4.日本歴史から見た沖縄の「祖国復帰」


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