尖閣列島問題参考書
浦野起央/著『尖閣諸島・琉球・中国 日中国際関係史』 三和書籍; 増補版 (2005/05)
尖閣諸島の領有権問題について、日本領論を主張する論文。引用文献も詳細に示しているので、学習・研究の手引きに有用。定価1万円を超える本で、ページ数も300ページを超えるが、空白部分が多く、割高感がある。
尖閣問題では、井上清氏が中国領論を唱えた。浦野起央の著書は、井上論文の論拠が不十分な点を論駁している。しかし、そもそも、近代以前の領有関係は、現代の領有と同列に論じることは出来ないので、現代の国際法から見たら、前近代の領有には不十分な点があるのは当然のことである。浦野の主張は、尖閣が中国領との主張を論拠不十分と論駁し、日本領論が正当であると主張しているが、日本領論であることを積極的に主張する精密な論拠を展開してほしかった。
私には、浦野の記述が理解できない点がある。一例を挙げる。
ペリーは…日米和親条約を締結して後、再び那覇に戻り、…琉球・米国条約を締結した。この取極は、中国式文書の形式をとり、条約の名はなく琉球国中山府史売大臣尚勲、布政大臣馬良才とペリーが署名し、琉球国印が捺印された。この締結の経緯からすると、日米和親条約がいずれは琉球にも適用されることを予想した暫定措置として、条約名なしのconventionをもって締結されたと解することができる。(P99)
『条約名なしのconventionをもって締結されたと解する』根拠は何でしょうか。この文章を見ると、琉米条約に条約名がないので、暫定的な協定だったと解するように感じられる。しかし、日米和親条約・日露和親条約・樺太千島交換条約などにも、条約名はなく、琉球・米国条約も条約名が無いのは、他の条約と同様であり、珍しいことではない。
日米和親条約や、琉米和親条約はどちらもタイトルがないので、日米和親条約は恒久的な条約で、琉米和親条約は暫定的な協定であると主張しているのだろうか。
浦野の本での、文献の引用は、正当なものなのか、きちんと検証する必要があるように思える。