尖閣問題に端を発した日中対立に関する、2人の学者による対論。2人共に、日本の大学院教授。
対論形式であるため、話に統一感がなくなる傾向があり、若干、理解しにくい。各自が、自分の論を一貫して著したほうが読みやすかったのではないかと感じる。特に、横山氏の論は、何を言っているのか良く分からないところが多々あるが、対論ではなくて、文章を推敲した後、論文として執筆すれば、分かりやすかったと思われ、その点が残念だ。全体として、横山氏が、日本の立場を主張し、王氏が、中立的立場でとりなしている。
横山氏は、中ロ国境問題を説明した後、「日本側から見れば、尖閣諸島を中国が独占するとは言わなくても、当然ながら実効支配している現状を変えるということですから、それは半分失うということになる。それはやはり強烈な危機感が生まれてくるわけです。(P84)」としているが、中ロ国境画定では、ロシアが実効支配していた領土の一部を、中国に渡すことで決着しているので、中ロ国境画定を参考にするならば、日本だけが、強烈な危機意識を持つ理由を説明しなくてはならないのに、その点の説明がない。
また、日中国交回復のときの尖閣棚上げについて、横山は、「ケ小平が1978年に言った言葉をそのままみれば、一時棚上げをするのは話し合い続けるということではなくて、両国政府が交渉する際、この問題を避けるのがいいでしょうということです。・・・素直に理解すれば、棚上げの中に、今後これを交渉するという発想はなかったと思いますが。(p87)」としている。しかし、ケ小平は、実際には、「我々の、この世代の人間は知恵が足りません。この問題は話がまとまりません。次の世代は、きっと我々よりは賢くなるでしょう。そのときは必ずや、お互いに皆が受け入れられる良い方法を見つけることができるでしょう。」と言っているので、次の世代に解決を委ねたのであって、今後とも交渉しないということではなかった。
このように、どうも横山氏の説明は、日本政府に都合の良いように我田引水的な強引解釈をしているように感じる。
北方領土問題でも、我田引水をしている。1956年の日ソ共同宣言について「策が何個かあり、最善の策は四島返還、最悪は二島返還でいいじゃないかと。それで初めは二島返還で合意しようと思ったけれど、もう少し日本側が押せばソ連は譲歩してくるのではないかということになって・・・(P125)」としているが、いくら、単純にまとめたとしても、それはないでしょう。横山氏が言うように、「日本側が押せばソ連は譲歩してくるのでは」などということではなかったことは、よく知られていることのはず。対談だから、文献を調べることなく思いつきで言ったのかもしれないけれど、それならば、対談ではなくて、文献を横において論文を執筆すればよかったのに。