和歌山県太地町 イルカ追い込み漁

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 2015年9月19日、和歌山県太地町のイルカ追い込み漁では、今季初めてバンドウイルカ200頭余りが捕獲された。今回はショービジネスなど販売目的の捕獲で、9月中には屠殺は行わないらしい。

  
 写真はイルカ漁の現場。くじら浜海水浴場から撮影したもの。ここには、公衆トイレもあって、イルカ追い込み漁を見るのに便利。ただし駐車場はないので、150mほど北にある「くじらの博物館」向かいの駐車場を利用することになる。

 
 この日は、警察官・海上保安庁・地元の警備員・報道関係者・シーシェパードのイギリス人(一人)・イルカ保護団体のメンバー(一人)。皆さん静かに、数時間じっと見ているようでした。



保護団体と警備


 この日、シーシェパードのメンバーと、自然保護団体らしい人がイルカ漁を見ていた。
   
 
 黒いTシャツがシーシェパード。イギリス人のまじめそうな青年だ。彼は、翌朝もこの場所に来ていた。動物保護の一途な思いで、遠い日本まで来るのだから、まじめで教養のある好青年に間違いないだろう。金儲けでイルカを捕獲して、あとは食うことしか頭にない無教養な漁師と比較すると、世界中の多くの人はイギリス人青年に共感を感じるだろう。

 
 警察官・海上保安庁・地元の警備員が見張っていた。警察力の庇護の下で、世界に批判される漁業を推し進める姿勢が情けない。
警察官・海上保安庁・地元の警備員 地元警察官。
見知らぬ人に職務質問をしていた。
海保のボート。
反捕鯨団体が海に入ることを警戒している。




捕獲されたイルカ

イルカは捕獲後、しばらく網の中において、ショービジネスなどへ販売するものを選別する。

 
 

 日本各地の水族館に販売されたイルカは芸を仕込まれたのち、ショービジネスに使われていた。しかし2015年5月、世界動物園水族館協会(WAZA)は日本動物園水族館協会(JAZA)に対して、太地町イルカの入手を禁止したため、多くの水族館は太地町イルカを購入しないことになった。
 欧米各国の水族館の目的は教育施設であり、イルカは他の魚と同じく生体展示が中心であるため、イルカは水族館で繁殖したものであることが多い。これに対して日本の水族館は、金儲けのための娯楽施設なので、イルカショーのために多数のイルカが必要となり、太地町イルカを購入していた。今後、日本の多くの水族館は、金儲けの娯楽施設から、欧米並みの教育施設へと転換する必要が生じるだろう。

 和歌山太地町「くじらの博物館」では、日本動物園水族館協会を脱退して、太地町イルカを購入しショービジネスを進めるそうだ。教養・教育よりもビジネスを優先する、民度の低い国民性の表れだろう。情けない。ただし、和歌山県民のすべてが民度が低いわけではない。和歌山県白浜には、まじめな教育施設である京都大学水族館がある。
http://www.seto.kyoto-u.ac.jp/aquarium/

 イルカは湾内で屠殺した後、食肉として流通する。漁協スーパーにはイルカ肉が売られている。


イルカショービジネスを進める太地町「くじらの博物館」 イルカ肉を販売している漁協スーパー
 

残酷な太地町イルカ漁

 和歌山県の公式ホームページには、太地町のイルカ殺害方法について、次のように書かれている。
和歌山県の公式説明
 太地町におけるイルカ追い込み漁は、以前は、映画「ザ・コーブ」で隠し撮りされたように、イルカを入江に追い込んだ後に、銛を用いて捕獲していました。
 しかし、2008年12月以降は、イルカが苦痛を感じる時間を短くするために、デンマークのフェロー諸島で行われている方法に改められています。この方法では、と殺時間は1/30に短縮(10秒前後)され、イルカの傷口も小さく、出血も殆どなくなりました。 (http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/071500/iruka/   2015:10:5閲覧)

 イルカに不必要な苦痛を与えて、なぶり殺しにするのは良くない。しかし、映画ザ・コーヴ以前、太地町ではイルカを300秒に渡って苦しめるなど、不必要な苦痛を与えて殺害していた。フェロー諸島では、より苦痛を与えない方法が取られていたので、苦痛が少ない方法を知ることは容易だったにもかかわらず、苦痛を与える殺害方法を続けていたのだから、太地町漁民は動物愛護精神が欠落した野蛮人であると言われても仕方ないだろう。太地町でフェロー諸島なみの殺し方になったのは、映画「ザ・コーヴ」で隠し撮りされたことが原因だ。隠し撮りのおかげで、太地町の殺し方が多少マシになったことが分かる。映画「ザ・コーヴ」の隠し撮りのおかげで、野蛮人と言われても仕方のない太地町漁民が少し文明化されたのだから、太地町漁民はシーシェパードなどに感謝して当然だ。

  イルカ殺害場所は見えないようにしている。映画「ザ・コーブ」の監督は取材を申し込んだが拒否されたため隠し撮りした。その結果、残酷な殺害をを隠すために殺害現場を見せていなかったことが明らかにされた。現在も殺害場所は非公開である。誰にでも見えるようにすると、小さい子供が目にして精神的ショックを受けるおそれがあるので、非公開であること自体は理解できる。しかし、希望する人に見学させない理由はにはならない。特に、反捕鯨派記者の取材を拒否する理由はない。映画ザ・コーブ以前は残虐な殺害はしていないと説明する一方で、秘密の中で残虐な殺害が行われていた。映画以降も秘密の中で殺害している。「残酷な殺し方はしていない」と言っても、どれだけの人が信じるのか。

 ところで、動物にに不必要な苦痛を与えて殺すのは良くないけれど、ひと思いに殺せばいいのか。そういうものではないような気がする。太地町のイルカ追い込み漁に反対している人の中には、殺し方が残酷であるとの主張もあるかもしれないが、だからといって「こういう殺し方ならば良い」と言っているわけではないだろう。


屠殺場所の撮影


 太地町のイルカは湾の奥で屠殺する。太地町漁協では「イルカを苦しめないように殺している」と嘘をつく一方、屠殺場所は非公開にしていたが、残虐な屠殺現場がビデオ撮影され、映画「The Cove」で公開され、日本の信用は一挙に失われた。 

 「くじら浜海水浴場」を右奥に進めば屠殺場所を見ることが出来るはずだが、ここは立ち入り禁止になっている。
 
 「くじら浜海水浴場」と「くじらの博物館」の中間あたりに、浅間山園地の上り口がある。園地遊歩道からは木が生い茂っていて屠殺場所を見ることはできない。樹林の中は立ち入り禁止。

くじら浜海水浴場右奥 浅間山園地の上り口 浅間山園地の樹林は立ち入り禁止


 しかし、長めの自撮棒を使うとイルカ屠殺場所を撮影することが可能。ただし、南国の木の葉が茂っていて、隙間から撮影できるところは少なく、木の葉が邪魔にならない構図は困難。下の写真は、撮影後トリミングして、木の葉の写りこみをなるべく消している。撮影したとき、屠殺は行われていなかった。

 

 LUMICAから出ている「Birds iRod」の長いのを使えば、木の上から撮影することも可能だろう。このほうが自撮棒よりも、ふらつかないで使いやすいかもしれない。SLIKのSポールIIを普通の三脚に接続した場合は、安定的に撮影できるが、ちょっと高さが不足するかもしれない。重連にすればどうかとか、いろいろ案が浮かぶが試したことはない。
 ドローンを使えば簡単だろうが、これではちょっと簡単すぎて機材を選ぶ面白さがなくなる。


 女性のスカートの中を盗撮して逮捕されたとの報道が時々あるので「イルカ漁の撮影も刑法犯罪に違いない」と単純に考える人もあるかもしれないので、この点について少しコメントする。刑事犯となる盗撮の多くは「わいせつ目的の盗撮」であり、太地町イルカ屠殺現場の撮影は関係ない。わいせつ目的盗撮禁止の根拠には以下の法令がある。
軽犯罪法(抜粋)
 第一条  左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
  二十三  正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

和歌山県・公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(抜粋)
 第4条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しく羞恥させ、又は他人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 (2) 着衣等で覆われている他人の下着又は身体(以下「下着等」という。)をのぞき見し、又は撮影すること。
 2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、写真機等を使用して着衣等を透かして見る方法により、みだりに着衣等で覆われている他人の下着等の映像を見、又は撮影してはならない。
 3 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他の公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所にいる人に対し、みだりに、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 (1) 姿態をのぞき見し、又は撮影すること。
 映画『ザ・コーヴ』には、イルカ屠殺シーンがあるが、これは『隠し取り』したものだった。わいせつ目的の盗撮ではなく、撮影行為自体が刑法犯になるわけではない。ところが、この映画は撮影のために立ち入り禁止場所に入って撮影している。立ち入り禁止場所に立ち入ることの是非については、以下の法律がある。
軽犯罪法(抜粋)
 第一条  左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
  三十二  入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者
 第四条  この法律の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。
 立ち入り禁止場所に入って撮影すると、軽犯罪法第一条三十二によって刑法犯になるおそれがあるが、軽犯罪法第四条によって、国民の知る権利の正当な行使のための撮影と判断されれば容認される可能性がある。実際、映画『ザ・コーヴ』の撮影が咎められることはなかった。ただし、立ち入り禁止箇所に立ち入って撮影することが必ず問題ないかと言うと、そういう訳ではない。個々のケースに従って警察・検察・裁判所が判断することだ。
 
 浅間山園地からは、適切な一脚や自撮棒を使い海岸を撮影すれば、イルカ屠殺現場の撮影がある程度可能だ。一般に、観光地などで、一脚や自撮棒を使って海岸風景を撮影することは珍しくなく、太地町海岸を撮影することに問題はない。ただし、公園によっては自撮棒等の使用に制限が加えられているところがあるので注意が必要だ。
 ドローンの使用については、法令の整備が十分に進んでいないので、その時の法令・規則に従う必要がある。

 なお、個人が特定できるような撮影では、刑事責任はなくても、民事責任が生じる可能性があるので注意が必要。




武器輸出

 太地町で活け取りにされたイルカは「太地町立くじらの博物館」で調教された後、太地町開発公社(理事長:三軒一高町長)などを通して海外に輸出されている。水族館用との説明がされているが、一部は軍事用の可能性が高い。
 
 2014年3月のノーボスチ通信によると、ロシアに編入されたクリミアでは、ウクライナ海軍所属の軍用イルカがロシア海軍に仕えることになった。なお、軍用イルカは、湾岸戦争やイラク戦争のときにアメリカが使用したようだ。
http://ria.ru/defense_safety/20140326/1001084309.html
http://jp.rbth.com/science/2014/03/28/47715
 
 太地町イルカは、2013年にウクライナへ20頭が輸出されている。軍用・ショービジネス用・水族館用の内訳は情報がなくてわからない。


 
太地町イルカの輸出先
 
 日本動物園水族館協会(JAZA)は太地町イルカを購入しないことを決定したため、国内でのイルカ生体の最終購入は、ほとんどなくなった。しかし、イルカは輸出されているので、太地町の追い込み漁は今なお健在だ。イルカ輸出先は中国・韓国・ロシア・ウクライナなどだが、中国が一番多い。ロシア・ウクライナは軍事用とショービジネス用があるようだが、現在ウクライナは西側を向いているので、今後イルカの輸入はなくなるだろう。中国・韓国のイルカ輸入がなくなる気配は今のところなさそうだ。
 中国からお金をもらうために、西側諸国の反対を押し切って、イルカ追い込み漁を今後も続ける。そんな太地町の姿勢が見えてくる。日本の国際戦略として、それでいいのだろうか。


水銀汚染されたイルカ肉
 
 鯨類の肉は、一般にメチル水銀に汚染されている。特に、バンドウイルカ肉の汚染は大きく、平成13年度厚生科学特別研究測定結果によれば、紀州沖バンドウイルカ筋肉のメチル水銀は平均で6.6ppmである。
 (出典:http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/01/h0116-4.html 2015.10.8閲覧)
 このため、厚生労働省では水銀濃度が高い鯨類の肉などを、妊婦が食べるときに注意を呼び掛けている。具体的には、バンドウイルカ肉摂取量の目安として、1回80gとして2カ月に1回までとしている。
 (出典:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-a.pdf 2015.10.8閲覧)
 成人などは一般にメチル水銀の排出能力があるので、厚生労働省は摂取制限をしていない。しかし、全ての成人が等しくメチル水銀排出能力が同じように備わっているのか、それは分からないことだ。自分は、メチル水銀排出能力が乏しい家系かもしれないので、鯨類肉などメチル水銀濃度が高い水産物は、頻繁に摂取しない方が良いと思う。日本生協連では次のように注意を喚起している。
 (出典:http://jccu.coop/food-safety/qa/qa02_02.html 2015.10.8閲覧)
 
『メチル水銀濃度が高い水産物を主菜とする料理を週2回以内(合計で週におおむね100〜200g程度以下)にすることをお勧めします』
『イルカ(歯鯨類)の肉には特に高い濃度のメチル水銀が含まれるため、ごくたまに嗜む程度にされることをお勧めします』
 
 ところで、鯨肉は臭いので、一般に濃い味をつける。缶詰だと大和煮が有名だ。和歌山県太地町で食べた鯨丼も醤油と砂糖で濃い味付けされていた。こんなものを頻繁に食べていたら、塩分取り過ぎになる。


太地町は自治体として規模が小さすぎる


 和歌山県太地町は、人口わずかに3000人・面積5.8平方キロメートルと、和歌山県でも最小の町で、周囲をすべて那智勝浦町に囲まれている。那智勝浦町の面積は183平方キロメートルなので、太地町は周辺自治体の合併から取り残された町ということができる。
 太地町のイルカ追い込み漁は、その残虐性が世界の動物保護団体を中心に批判されているが、太地町では有効な反論ができていない。漁民たちの言い分を世界に向かって情報発信するためには、人口3000の町役場では人員・人材不足だろう。また、イルカ追い込み漁をやめるにしても、小規模な町では代替産業を見つけることも難しい。
 市町村合併で自治体の規模を大きくすれば良さそうに思うのだが、2004年に太地町・那智勝浦町の合併協議会は解散し、2009年には那智勝浦町と新宮市の合併協議会が解散している。那智勝浦町と太地町にまたがるリゾート施設のグリーンピア南紀は、2003年(平成15年)3月に事業停止後、2005年に中国系企業との間で不透明な譲渡契約が結ばれるなどした。2009年には小嶋英嗣・那智勝浦町長が就任後2ヶ月で自殺している。政治には、何かと問題がある地域のようだ。
 
 しかし、この地域は観光名所が多い。寺社も有名どころが多い。


日本は「調査捕鯨」と嘘をついて「商業捕鯨」を続けてきた


 南氷洋の商業捕鯨が禁止されると、調査捕鯨はクジラ肉を安定的に供給していくためのものだったが、日本は学術調査と偽ってクジラ漁を続けた。
 海外では嘘をついてきた日本だが、国内向けには本当のことを言うこともあった。国会での説明は公開公文書に残ることになり、日本の嘘が国際的に広く知れ渡ることとなった。

衆議院決算行政監視委員会行政に関する小委員会(小委員長 新藤義孝)(2012年10月23日)における政府参考人・本川一善水産庁長官の答弁

 被災前でありますが、調査捕鯨として大体八割、三千八百トン、七百トン前後をとってきておりますが、そのうち南極海が二千トンであります。ただ、これはミンククジラというものを中心にとっております。ミンクというのは、お刺身なんかにしたときに非常に香りとか味がいいということで、重宝されているものであります
 それから、北西太平洋で千七百トン程度、二十二年はとっておりますが、そのうち百二十トンが沿岸の調査捕鯨であります。千五百トン強はいわゆる鯨類研究所がとっている鯨であります。ただ、こちらはイワシクジラとかニタリクジラというものを中心にとっております。
 それから、沿岸の小型捕鯨というのが二十二年で四百十七トン捕獲しておりますが、これはツチクジラという、イルカに非常に形が似た鯨でありまして、ジャーキーのような、干し肉になるようなものでございます。この前、鮎川に行かれたときに、鮎川の捕鯨の方がとっておられましたが、これはまさにツチクジラをとる業を営んでおられる方でありまして、この方が南氷洋でとられるミンククジラを扱うということはまずないのではないかなというふうに思っております。
 したがって、ミンククジラを安定的に供給していくためにはやはり南氷洋での調査捕鯨が必要だった、そういうことをこれまで申し上げてきたわけでございます。(出典:国会会議録検索システム)

(かつての調査捕鯨船)


太地町イルカ追い込み漁を考える


イルカ追い込み漁のようす 早朝から環境保護団体の進入を警戒する海上保安庁のボート


太地町のイルカ漁はシーシェパードをはじめ、各国の環境保護団体から強い非難を浴びている。以下、非難を無視してまで、推し進める必要があるのかどうかを考えてみる。
 
 
1.太地町の捕鯨は伝統文化か?

 太地町は古式捕鯨発祥の地としている。長い間、くじらやイルカを採ってきたことは事実だが、だからと言って、すべてのイルカ漁を正当化する理由にはならない。
 北海道のことを考えてみよう。アイヌの人たちは川で鮭をとって生活の糧としてきたが、現在、鮭を川でとることは禁止されている。水産庁では「儀式のため」「伝統漁法継承のため」の捕獲ならば許可するが、生活のための捕獲は認めていないようだ。
 もし、太地町が「儀式のため」「伝統漁法継承のため」にイルカを採るのならば、それを禁止することは不当かもしれない。しかし、太地町で行われている捕鯨は「商業捕鯨」であって「儀式捕鯨」ではない。伝統文化とはまったく関係のない捕鯨であるので、伝統文化を理由にすることはできない。
  
 エンジン付ボートを使ったイルカ追い込み漁は「伝統漁法」ではない。

 

 太地町で捕獲されたイルカの一部は生きたまま水族館へ販売される。また食肉とされたものはスーパーマーケットに流通する。このような販売・流通目的の漁業は伝統とは言えない。すなわち、太地町イルカ漁は、その手法も目的も伝統文化ではなく、伝統文化を口実とした単なる商業捕鯨である。
 
 「太地町の追い込み漁」すなわち「燃料で走る船を使い金属管を叩く音で追い込むイルカの追い込み漁」は、1969 年に設立された「太地町立くじらの博物館」に展示するために始まったものである。 (出典:ビジネス情報誌オルタナ 2015年6月)
 太地町のイルカ追い込み漁のルーツは江戸時代までさかのぼるとの見解もあるが、「ルーツ」は今の漁とは異なるので、現在の追い込み漁が伝統であるとの理由にはならない。


 
(古式鯨漁の遺構。現代の商業捕鯨では使われない。)  



 戦後の食糧難時代には鯨が国民の重要な蛋白源だった。この時代、太地町は南氷洋捕鯨基地として栄えた。南氷洋の捕鯨は伝統漁業ではないが、現在太地町で行われているイルカ追い込み漁は、南氷洋の捕鯨とも異なる。

 日本では、明治の終わりごろ、ノルウエーの捕鯨砲を用いた近代捕鯨技術を導入したが、南氷洋の捕鯨は、この手法が使われている。左の2枚は、戦後まもなく使用された普通切手。切手の図案には捕鯨砲が描かれている。
 




2.昔から食べているのだから今も食べてよいのか

 昔食べていないものを今食べているものや、昔食べていたが、今では食べられなくなったものは珍しいことではない。昔から食べてきたことは、今食べる理由にはならない。ただし、自分で捕ったくじらを自分で食べるのならば、それほど批判は浴びないだろう。現在、国際的な批判を浴びているのは、販売目的に行われる大規模イルカ漁だ。
 写真は、太地町で食べた「くじら丼」「くじらからあげ定食」。牛丼や鳥からあげがあるのだから、くじらやイルカがなくても生きるために困ることはなく、どうしても食べなくてはならない理由は無い。
 そもそも、食べるだけのためならば「イルカ追い込み漁」は必要ない。
太地町の食堂のメニュー「くじら丼」 太地町の食堂のメニュー「くじら唐揚定食」



3.WAZAの決定とJAZAの決断

 2015年4月、世界動物園水族館協会(WAZA)は、太地町のイルカを水族館が購入することが「動物の福祉」の倫理規範に違反するとして、日本動物園水族館協会(JAZA)に会員資格停止を勧告した。これに対して、JAZAでは太地町のイルカを購入しないことを約束してWAZAに復帰した。
 現在、欧米各国の多くの水族館のイルカは、水族館で繁殖したものを使っている。水族館は教養・教育施設であるため、多数のイルカを必要としないので、水族館で繁殖したイルカで間に合っている場合が多い。これに対して、日本の多くの水族館は、営利目的の娯楽施設として、イルカショーがメインの出し物になっており、多数のイルカが必要なために、太地町追い込み漁で活け取りされたイルカを必要としていた。今後、イルカの調達が容易ではなくなるので、営利・娯楽施設から教育・教養施設へと転換を図る必要性に迫られるだろう。
 
 こうした中、太地町「くじらの博物館」では、JAZAを脱退して、太地町イルカを購入しショービジネスを進めるそうだ。教養・教育よりもビジネスを優先する、民度の低い国民性の表れだろう。情けない。(太地町イルカを購入しショービジネスを進める 太地町「くじらの博物館」)
 
 
4.調査捕鯨について

 日本は学術調査の目的と称して、南氷洋で捕鯨を行ってきたが、2014年の国際司法裁判所の判決では、調査に名を借りた事実上の商業捕鯨であるとの理由で禁止された。太地町では、調査捕鯨船・第一京丸が展示されている。
 学術調査ならば、多数の学術成果を発表して、日本人海洋学者が各国の大学教授のポストを確保すればよいのに、ほとんど成果のない調査しかしてこなかったのだから、禁止されて当然のことだ。
  
 
5.情報発信不足と反対運動の押さえ込み

 太地町イルカ追い込み漁に強く反対しているシーシェパードの論理は、要するにイルカを採ることが嫌いであるとの感情論だろう。これに対して、和歌山県や太地町の見解は、要するに食べたい物を食べて何が悪いという感情論だ。シーシェパードの論理は単純な感情論だが、和歌山県や太地町の見解は販売のための商業捕鯨を自分たちの消費であるかのようにごまかしている点で、たちが悪い。
 どちらの感情論が国際的共感を得ているかといえば、シーシェパードの圧勝だろう。今後、和歌山県や太地町は、感情論をやめて理性で説得するか、国際的共感を得られるような情報発信が必要なのに、そのような努力も能力も欠如しているようだ。情報を隠して、警察と海保で取締りをするだけの対応では国際理解は得られない。      

 
 (シーシェパードのイギリス人青年。悲しい表情でイルカ追い込み漁を見つめていた。)


 ルイ・シホヨス監督が作成した映画「ザ・コーヴ」は、2010年にアカデミー賞を受賞した。この映画には、イルカショーが残酷であるとして批判するメッセージと、太地町のイルカ屠殺は残酷であるとする2つのメッセージが含まれている。前者については、WAZAの決定により、日本の多くの水族館も太地町イルカ購入を断念した。
 太地町では屠殺はイルカを苦しめないようにしていると嘘をつく一方で、屠殺現場は秘密にして取材を拒否してきた。映画では、立ち入り禁止区域に無断進入して撮影するなどの映画作成方法が強調された内容となっている。困難を克服した上での撮影が、国際的に高い評価を受けて、映画はアカデミーショーを受賞した。
 しかし、現場を見ると、映画の撮影方法は、それほどたいしたことではない。彼等が立ち入り禁止区域にカメラを設置して撮影したことは事実だが、そのようなことをしなくても、長い自撮棒のような撮影機材を使えば、合法的に撮影できるように思える。しかし、撮影方法のために、日本政府がイルカの残虐な屠殺を推し進めている印象が強い映画になり、映画の国際評価に繋がった面は否定できない。
  
 なお、太地町では映画によって残酷な殺害方法がバレタため、殺害方法を変えた。しかし、イルカを屠殺する場所は、取材目的でも自分たちに都合の良い人以外に見せることはない。

 
 映画には余り出てこなかったが、太地町のイルカ漁は警察・海保の援護のもとに行われている。和歌山県警はイルカ漁時期には臨時交番を設置し、イルカ漁見物の観光客に対して職務質問をしている。質問内容は、見物目的、住所氏名に止まらず、生年月日・電話番号・職業・勤務先名・捕鯨に反対か賛成かまで質問するので、捕鯨に反対する日本人観光客にはかなりの威圧になっているだろう。 


(イルカ漁時期に設置された臨時交番)
 
  
 以上見てきたように、太地町イルカ追い込み漁の実態は、手法も目的も伝統文化ではなく、伝統文化を口実とした単なる商業捕鯨であるので、日本の伝統文化として守る価値はない。漁の正当性主張においても、国際理解は得られていない。日本国内の政治力により国内法上合法化し、警察と海保によって守られながら、実態を隠した上で行われている。このような状況を今後も続けることは、日本の国益にも反し、地元の観光にもマイナスだろう。


  太地町は那智に近く、海が綺麗な町なので、観光に力を入れれば良いように思うのだけれど、実際には町に来てくれる外国人を敵視して、日本の観光客にも不快な思いをさせるようなことをしている。こんなことでは、町はジリ貧以外にないのではないだろうか。
 
  
 欧米各国の多くの水族館のイルカは、水族館で繁殖したものを使っているが、太地町「くじらの博物館」では、JAZAを脱退して太地町イルカを購入しショービジネスを進めるそうだ。太地町「くじらの博物館」の入館者数は1974年の478,573人をピークに、1992年以降減少を続け、2006年には150,722人、2009年141,688人、2013年87,175人と最盛期の1/5まで減少した。これでは経営が成り立たないので、2005年よりイルカを海外の水族館に輸出販売する事業を行っている。観光客の減少による赤字補填をイルカ追い込み漁に依存し、それが観光客の減少に拍車をかけている悪循環が見て取れる。
  
参考資料
 遠藤愛子『変容する鯨類資源の利用実態』国立民族学博物館調査報告97:237-267(2011)
 太地町役場ホームページ(http://www.town.taiji.wakayama.jp/tyousei/sub_02.html) 2015/9/28閲覧


那智の滝の写真は横に三重塔が入っているものが多い。この景色、対になって美しい。


 

三重塔は古いものではなく、内部にはエレベーターが備え付けられている。そして壁面には、極楽浄土の様子を描いたらしい仏画がある。

 

 男根を勃起させた男の姿や、男女の性行為、女陰を広げた女の姿などが、菩薩像と共に描かれており、伝統的な日本の仏画とは異質だ。理趣経の世界を表したのだろうか。作者の意図は分からないが、私には、グロテスクな絵に感じられる。多数の相手と性行為をすることが好きな人が極楽浄土を心に描いた場合、極楽浄土とは不特定多数の相手といつでも性行為をする世界であると考えるのは自然かもしれない。しかし、私はグロテスクな世界に感じる。 
 少女の肉体を切り刻んで食べたいと思っている人が心に描く極楽浄土は、そういう世界かもしれないが、絵にしたらホラーだ。
 
 イルカ漁に反対する人たちにとって、イルカ漁はホラーに感じるのだろう。だから、反対する気持ちは理解できる。
 
 しかし、普通にイルカを食べている人は、イルカ漁は普通のことに感じるだろう。日本でも、かつてタンパク不足の時代には、鯨を学校給食などで食べていたが、鶏・豚・牛肉を普通に食べられるようになると、鯨肉を食べる人は激減した。現在、鯨類肉の年間消費量は5000トン程度であるので、国民一人当たり換算で年間40gの消費だ。これは、ほとんどの日本人は、鯨類肉を食べていないと言うことで、鯨食は地域食あるいは特定個人食になっている。特定個人食は食文化ではないが、地域食は食文化だろう。このため、『食文化としての地域色である鯨類食を守れ』との主張は理解できる。しかし、太地町のイルカ追い込み漁は地域食を目的としたものではなく、水族館への販売やスーパーマーケットを通した流通だ。
 何かと批判される太地町のイルカ漁だが、実は、イルカの捕獲は三陸の方が多い。2005年の小型鯨類の漁獲量を見ると、和歌山県が1279頭なのに対して、岩手県では13127頭と10倍の漁獲がある。(出典:水産庁・ 水産総合研究センター 平成23年度国際漁業資源の現況 小型鯨類の漁業と資源調査(総説))。シーシェパードなどの環境保護団体は三陸の鯨類の漁にも反対し監視活動をしているが、反対運動は活発ではない。
 太地町イルカ漁が批判される原因は、イルカ漁の目的や手法の特異性と、情報発信の問題が大きい。しかし、太地町は過疎地で高齢化が進んでおり、改革・改良の気運が全く感じられない。このままでは、太地町のイルカ漁も鯨食も自然消滅の運命だろう。




イルカ漁とは関係ない話・・・アルメニア人大虐殺のトルコ



和歌山県潮岬にはトルコの英雄ケマルの騎馬像がある。

 オスマン帝国は多民族国家だった。しかし、第一次世界大戦敗北の結果、オスマン帝国がほとんど消滅状態になると、トルコ民族の国家であるトルコ共和国が誕生した。ケマルはトルコ共和国誕生の主導を果たし、初代大統領に就任した。多民族国家が単一民族国家になる過程で、領内のアルメニア人の大虐殺が行われた。ケマルがどの程度虐殺に関与していたのかは諸説ある。また、トルコ共和国では、現在に至るも、虐殺の事実を認めていない。しかし、2015年4月、EUの欧州会議では、大虐殺(ジェノサイド)と認定して、トルコにアルメニアとの和解を促す決議を採択した。なお、ヒットラーのユダヤ人虐殺はトルコのアルメニア人虐殺にヒントを得たと考える人もいるようだ。
 このように、賛否の分かれる人物を顕彰する像を、無関係な日本の自治体が建てて置くことが良いのか、はなはだ疑問だ。


「建国の父」ケマルの実態
 テュルキイェは、第一次世界大戦でドイツと同盟し、敗戦によって国家存亡の危機に立たされていた。その一九一九年春、英・仏はギリシャ軍を使ってスミルナ(イズミール)市に上陸し、アナトリアを占領、分割する侵略戦争に打って出た。アンカラ政府を樹立したケマルは、二一年、伊・仏に撤兵を余儀なくさせつつ、ギリシャ軍を連破し、二二年九月、同軍を壊走させた後、スミルナに「無血入城」したとされているが、実はこうであった。時の米国総領事G.ホートンの報告によると、ケマルの軍は、ギリシャ人、アルメニア人両地区の無防備・非武装の居住民に襲いかかって二〇万人を殺戮し、市街地を焼き尽くした。今日、エフェソス等のヘレニズム史跡を訪ねる旅人が憩うイズミールの海岸通りや港は、当時、命あって逃げ惑う人と船で大混乱、凄惨な光景を呈したところなのである。間違いなく、ケマルは「スミルナの虐殺」に責任がある。
   出典:中島偉晴/著 『アルメニア人ジェノサイド』 明石書店 (2007/4)  (P208,209)

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