本の紹介−神様のいる家で育ちました       2023/1/19


 
菊池真理子/著『神様のいる家で育ちました』文芸春秋(2022.10)
 
 
全7話。
第1話:エホバ 二世問題
第2話:崇教真光 二世問題
第3話:統一教会 二世問題
第4話:バプテスト 二世問題
第5話:幸福の科学 二世問題
第6話:真如苑 二世問題
第7話:創価学会 二世問題
 
 各章ともに、宗教の名称は書かれていないが、話の内容や漫画の絵から宗教名は容易に推定できる。
 第4話以外は新興宗教。第4話のバプテストは、教会ごとに教義の厳格さに違いがあるが、本書の内容や絵からは、どの教会なのか分からない。第7話の創価学会は、おそらく著者自身の体験を描いたもの。
 
 マンガの絵は明るい感じなのだけれど、内容は暗く重い。子供に対する虐待・ネグレクトなどが多い。また、すべてのケースで宗教の押し付けのため、学校で子供が浮いてしまい、正常な人間関係の構築に支障をきたしており、脱会することが困難になっている。これは、取り上げられた宗教が日本社会の中で浮いた存在であることの証と言えるだろう。

 本書はマンガなので、書かれている内容のすべてが100%事実というわけではない。そんなことは、言わなくても、ほとんどの人は知っているだろう。ただし、そうはいっても、この漫画の内容は、かなりの部分が実話のようで、多くは、信者二世の聞き取り調査をして書いたものだと思われる。
 落ち着いて読むと、どうも二世信者と宗教の問題ではなくて、母親・両親・夫婦関係にもともと問題があって、そこを宗教に付け込まれた悲劇が多いように感じる。
 
 
 本書は、かつて、集英社のウエブサイトで公開されていたが、幸福の科学から事実誤認があるとの抗議を受けて、公開中止となった。その後、文芸春秋より単行本として出版された。そもそも、これは漫画であって、事実に基づく論文ではないので、事実誤認との新興宗教側の抗議はまとはずれであり、しかも、抗議の内容は、微細なことに感じる。以下に、幸福の科学による反論が掲載されている。
 https://happy-science.jp/news/public/15638/
 
 漫画では高校から繁華街までは電車とバスで1時間とあるが、幸福の科学は、最も近い繁華街まではバス30分であるとの指摘している。(実際はシャトルバスで精舎から那須塩原駅までは30分、高校から那須塩原駅は35分。)しかし、那須塩原にはあまりいい店がなく、黒磯に行きたい人は、乗り換え時間を含めると、駅まで50分程度はかかることになり、漫画の記載はかなり正確と思える。
 漫画には本人が「総裁先生も東大を勧められてる」と思っているシーンがある。この点について、幸福の科学は「そのような事実はありません」としている。漫画では、本人の思いであって、大川が言ったとは書かれていない。頓珍漢な批判にはあきれる。もっとも、それほど学力が高くない幸福の科学学園高校の卒業生全員が東大に入れるわけないのだから、高校側が全員に東大進学を目指す指導をしてとは思えないが、成績の良いごく一部の子が東大を目指すように指導することがあるのは当然です。
 
 幸福の科学の反論には興味ある記述がある。
 『本漫画の冒頭では、「24歳 死ぬことにしました」と主人公が薬物を大量摂取して自殺を図るようなシーンが描かれていますが、当グループは「自殺してはいけない」ことを繰り返し教えています。』
 漫画を読んだ時、自殺未遂は、話を面白くするよためのフィクションと思った。幸福の科学がこのように書いているところを見ると、一期生の自殺未遂は事実なのだろうか。幸福の科学のために心を病んで自殺未遂に至ったにもかかわらず、教団では、高校生に、「自殺してはいけない」ことを繰り返し教えているだけなのだろうか。もしそうだとしたら、まともな宗教とはとても思えない。「自殺してはいけない」ことを繰り返し教えればよいのではなくて、命を大切にする教育をして、実効が上がらないといけないのです。

 
 幸福の科学は以下のように書いている。
 『また、本漫画では「母が私の名義で多額の借金をつくっていたことも判明」などと描かれています。これは奨学金のことと思われますが、奨学金は本人名義でしか借りられません。本漫画のケースの場合、実際には当初から奨学金はすべて母親が代わりに返済しています。』
 この記述が真実ならば、恐ろしい。教団は信者の借金の内訳をどのようにして知ったのだろう。幸福の科学の信者は個人の借入金を教団に報告するのだろうか。預金通帳を提出させて、献金を命令していた恐ろしい教団もあるようだが、幸福の科学もそういう新興宗教なの?
 
 普通に読めば、この漫画は幸福の科学と信者の直接関係を扱ったのではなくて、信者と信者2世の問題を扱ったもの。幸福の科学は幸福の科学と信者2世の直接関係ととらえて批判しているように見受けられる。このため、幸福の科学側の反論は、的外れに感じる。


 

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