本の紹介−「カルト」を問い直す 信教の自由というリスク 2023/2/20
櫻井義秀/著『「カルト」を問い直す 信教の自由というリスク』中公新書ラクレ (2006/1)
統一協会は、全国各大学で、新興宗教であることを隠して新入生を勧誘したため、一部学生が統一協会被害を受けた。北海道大学でも不当勧誘が行われていたため、宗教社会学者で北大教授の筆者が被害防止対策に尽力した。
本書はオウム真理教を中心にカルト問題を扱っているが、統一協会も取り上げられている。慎重に読めば、統一協会の悪質性が理解できるが、ざっくり読んだのでは、統一協会が問題教団であることを読み落とすかもしれない。本書は宗教社会学者の執筆なので、客観的な事実の記述が多く、センセーショナルな記述はない。
本書はオウムを扱った部分が多いが、統一協会の脱会に関する記述もある。
安倍射殺事件後、家庭連合(統一協会)の勅使河原氏が記者会見で、信者が拉致・監禁されて脱会を迫られた被害者であるかのように語っていた。統一協会員の脱会を求める人は多くの場合、親であり、親子間の問題になる。このため、特に、脱会カウンセリングの初期では、脱会説得技術が未熟であったり、父親が傲慢であったりすることもあり、カウンセリングが適切に行われないこともあった。勅使河原氏の言説は、このような一部事例を取り上げて、さも、脱会カウンセリングのすべてが不当であるかのように言い建てているように感じた。
統一協会側言説が多いジャーナリスト米本和広氏の著書でも、脱会カウンセリングに批判的であるが、この件に関して、以下の記述があり、問題の難しさを考えさせられる。
脱会までの心理的葛藤オウム事件の時に、宗教学者の島田裕巳、中沢新一や、評論家の吉本隆明など、オウムを擁護したものもあった。なぜ、このようなことが起こったのか。本書には以下の記述がある。
学術的研究から米本の取り上げた三人の元信者の事例を考察すると、脱会時の脱会カウンセリング以上に、その後のケアを十分受けられなかった可能性が推測できる。米本のレポートや当人のホームページを参照する限り、この三名が十分な合意を得てカウンセリングに移行できたとは言えない。しかし、それ以上に問題であるのは、なぜこのようなカウンセリングを受けなければいけない状況にいたったのか、当人たちがカウンセリングを通して納得できなかったところにある。逆に言えば、そのまま統一教会信者として生きていくか、脱会して別の人生を生きるか、自分の意志で決断できるようになる前に選択を急がされたのではないだろうか。(P105)
島田の研究手法とは、対象教団から提供してもらった資料や自身の参与観察によって、教団の内的肚界を記述するものだ。踏み込みの甘さはあるにせよ、それは新宗教研究のオーソドックスなやり方だった。それが、研究者を広告塔として利用する教団には通用しなかった。そのような教団の存在を仮定しなかったために、相手の懐にとびこんでフィールドワークを行えば対象が何であるか理解できるという素朴な実証主義と、研究対象への批判的視点を失った新宗教理解の甘さが、露呈されたのである。現在、新しい調査研究法が模索されており、「カルト」問題の研究は始まったばかりと言える。(P21)宗教や思想の専門家にしては、人の心の理解が乏しすぎるのではないか。こんな甘い考えで生まれた思想など、どれほどのものなのだろうかと、心寒いものを感じる。