放射線量および関係する用語の説明


放射線量

 放射線場にはいろいろな状態がある。放射線場の状態とは、次の@〜Dの意味である。
  @どういう粒子(光子を含む)からなる放射線か
  Aどういうエネルギー分布をもつか
  Bどういう方向分布か
  C単位時間にどれだけやって来ているか
  Dさらに、@〜Cが時間的にどのように変化するか
 もし、ある空間領域内で、これらすべての量に関する情報が明らかであれば、その領域における放射線場の状態を完全に把握していることになるが、場が特別な規則性を持つ場合のような特殊な例を除いて、放射線場の無数の情報を列挙することは、ほとんど不可能である。実用的な見地からすると、複雑な放射線場の情報を、何かある方法で集約して、一つの数値で代表させることができれば便利なので、放射線場を記述するために用いるさまざまな『線量』概念が作られている。一つの数値で代表させる方法は無数に考えられるので、目的に応じた方法で、放射線場の状態を集約したさまざまな『線量』(照射線量・カーマ・吸収線量など)が、共存することになった。
 このため、個々の『線量』が、「どのような目的のために」「どのような方法で放射線場の情報を集約し」「結果として、放射線場のどのような特徴を記述する量になっているか」を、十分理解した上で、的確に区別して使用しなければならない。[1]



目 次

単位

放射線の種類

放射性物質

計測線量

線量当量

α線、β線の外部被曝

γ線の外部被曝

内部被曝 


単位  

J(ジュール)
 エネルギーの単位。1ニュートンの力を1m作用した時のエネルギーとして定義される。1カロリーは4.2J。

eV(電子ボルト)
 エネルギーの単位。放射線粒子のエネルギーのように、微視的エネルギーを論じるときに使われる単位。電子1つを1V加速した時のエネルギーとして定義される。1eV=1.602×10-19Jの関係がある。

C(クーロン)
 電荷の単位。1アンペアの電流が1秒流れるときに運ばれる電荷を1Cと定義する。電子の電荷は1.602×10-19C。

Gy(グレイ)
 放射線照射により物質にエネルギーが与えられた時、そのエネルギーを示すための単位。媒質1kg当り1Jのエネルギーが付与されたとき1Gyと定義する。1Gy=1J/kg。
 かつては、Radが使われていた。1Radは1gあたり100ergとして定義されており、1Gy=100Radの関係がある。

Sv(シーベルト)
 Gy(グレイ)と同様に、単位質量あたりに付与されたエネルギーに関係した量であるが、線量当量の数値であることを明確にし、吸収線量と区別するため、個別の名称が与えられている。
 放射線防護施策のために使用される値、すなわち、放射線を利用する計画に伴う、将来のリスクを予測評価するための目安に使用される値である。すでに受けてしまった被曝から個人の、将来がんを誘発する可能性を評価するために用いる値ではない。また、確率的影響評価の指標であるため、確定的影響を評価するためには使用できない。
 吸収エネルギーの単位は、Gy(グレイ)であるが、吸収エネルギーが同じでも、放射線の種類により、生体に対する確率的影響は異なるので、将来の発癌リスク等を見積もるために、放射線種ごとに放射線加重係数(WR)をかけたあたいがシーベルトである。
 かつては、Remが使われていた。1Sv=100Rem。

Bq(ベクレル)
 ある放射性物質が1秒間に放出する放射線の個数。1Bq=1個/s
 以前は、ci(キューリー)が使われた。1ci=3.7GBq(ギガベクレル)

接頭語
 1Gyなどは、実際の放射線量に対しては大きいので、単位には接頭語をつけて、μGyなどで表すことがある。
  p:10-12  n:10-9  μ:10-6
  m:10-3  k:103   M:106
  G:109   T:1012

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放射線の種類  

α線 ヘリウムの原子核で正の電荷をもつ。
透過力は極めて弱いので、外部被ばくの場合、真皮への影響は少ない。
β線 電子線で負の電荷をもつ。
透過力は強くないが、外部被ばくの場合、真皮へ到達し、β線熱傷を起こす。
γ線とX線 電磁波(光子)。原子核由来のものをγ線と言い、電子由来のものをX線と言うが、同じもの。
電磁波であるため、電波や可視光線の仲間であるが、これらに比べて、光子エネルギーが高い。
光子エネルギーによって、性質が異なる。電荷をもたない。
中性子線 核分裂等により発生する中性子の放射線。
透過力が極めて高いため、鉄筋コンクリートなどの内部診断に利用する研究が行われている。
その他の粒子線 重粒子線、陽子線、ミュー粒子線など



γ線によるエネルギー付与
 γ線が媒体にあたると、媒体にエネルギーを与え、それが原因で、電子をはじき出す。この影響でDNAが壊れる等の現象が起こり、生体に悪影響を与える。γ線がエネルギーを与えるメカニズムは、いくつかの種類がある。実際には、コンプトン効果と光電効果の影響が、大部分を占める。

コンプトン効果 γ線エネルギーの一部が電子に吸収され、反跳電子とγ線が発生する現象。
発生したγ線は元のγ線よりもエネルギーが低下する。
反跳電子の運動エネルギーが、束縛エネルギーより大きいときは、β線となる。
光電効果 γ線エネルギーが電子に吸収され、β線が発生する現象。
β線の運動エネルギーは次式となる。
 E=hν−I
  ここで、h:プランク定数  ν:γ線の周波数 I:電子の束縛エネルギー
電子対生成 1.02MeV以上の高エネルギーγ線によって生じる。
γ線が、原子核などに衝突したときに、電子と陽電子が生成される現象。
光核反応 高エネルギーのγ線に照射より生じる効果。
電磁波が原子核にエネルギーを与えて、陽子・中性子・α粒子などを放出する現象。原子核が放射化する。
レーリー散乱 γ線が物質により散乱される現象であるが、媒質にエネルギーを付与しない。



放射線粒子のエネルギー(単位:eV)と吸収エネルギー(単位:Gy)
 どちらも「放射線のエネルギー」と言われるので、混乱する。
 γ線は電磁波の一種で光子線であるので、光子1つ1つに運動エネルギーをもっている。波長と、エネルギーの間には、次の関係式が成り立つ。
  E=hν=hc/λ
   ここで、h:プランク定数  ν:γ線の周波数 c:光速 λ:γ線の波長
 実際の放射線は、光子1つと言うことはなくて、たくさんの粒子が飛んでくる。多数の粒子線から、媒体はエネルギーを受け取る。これが吸収エネルギー。
 どちらもエネルギーなので、単位はJで良いが、放射線粒子のエネルギーの場合は、eVを使うことが多く、吸収エネルギーの場合は、媒体1kgあたりの吸収エネルギーとしてGyが使われる。

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放射性物質  


放射性物質  単位:Bq
 放射線を出す物質。放射性元素を含む物質。

放射能
 放射性物質が放射線を出す現象または性質のことであるが、放射性物質とほぼ同義でつかわれる。


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計測線量  

 計測線量(dosimetricquantity)は、放射線場の状態を集約したさまざまな『線量』と呼ばれる量のうち、物理量であるものに相当する。
 放射線場とそれが相互作用する物体とに関するさまざまな情報を、一つの数値に集約させる方法は無数にあるので、それに対応して数多くの計測線量が考案されてきた。いずれの計測線量も、ある特定の事象に着目してつくられたものなので、その適用範囲は自ずから限定される。すべての現象について、同一の線量が同一の効果を表すような『万能の線量』などは存在しない[2]


(粒子)フルエンス   単位:個/m2
 単位断面積を通過する放射線の個数。単一方向から入射する場合は、その方向の垂直断面を考える。
 方向がランダムな時は、小さい球面を考えて、その面に入射する放射線の個数を球の表面積で割った値。

(粒子)フルエンス率   単位:個/m2/s
 単位時間当たりの粒子フルエンス。

(エネルギー)フルエンス   単位:eV/m2
 粒子フルエンスが「単位断面積を通過する放射線の個数」であるのに対して、エネルギーフルエンスは単位断面積を通過する放射線の総エネルギー」である。

(エネルギー)フルエンス率   単位:eV/m2/s
 単位時間当たりのエネルギーフルエンス。

照射線量  単位:C/kg 以前はR(レントゲン)
 かつて、広く使われたが、現在は、あまり使われない。
 乾燥空気がγ線に照射されたときに、乾燥空気単位質量当りの電荷発生量のこと。乾燥空気1kgあたり1Cの電荷が生じるときは、1C/kgとなる。従来使用されていたレントゲン(R)とは、ほぼ1R=2.58×10−4C/kgの関係がある。
 レントゲンは、標準状態の乾燥空気、単位体積(cm3)あたりの、cgs・esu静電単位の電荷として定義される。

空気カーマ  単位:Gy
 γ線のような電荷をもたない放射線に対して定義される。
 γ線が空気に入射したとき、空気にはγ線からエネルギーが付与される。このうちの多くは、β線として観測される。β線の初期運動エネルギーの総和を空気カーマと名付ける。空気1sあたり1Jのエネルギーのとき、1Gyと定義する。
 荷電粒子平衡が成立している状態では、空気カーマと空気吸収線量は近似する。

シーマ  単位:Gy
 カーマは非荷電粒子に対して定義されるが、シーマは荷電粒子に対してカーマと同様に定義される。あまり使用されない。

空気吸収線量  単位:Gy
 放射線が空気に入射した時、空気は放射線のエネルギーを吸収する。空気1sあたり1Jのエネルギーを吸収するとき、1Gyと定義する。

吸収線量  単位:Gy
 空気吸収線量と同様に、他の媒質に対しても、吸収線量が定義される。媒質の大きさや、形状、照射方向により異なる値となる。

線エネルギー付与(LET)  単位:eV/m
 放射線が物質中を通過する際、飛跡に沿って単位長さ当りに失うエネルギー。
 吸収線量(Gy)はエネルギー吸収量をマクロに見たときの値であるが、エネルギー付与は、放射線飛跡に沿った、分布をもった広がりとなる。この広がりの違いにより、同一線量であっても、放射線種や放射線粒子のエネルギーが異なると、生体が放射線から受ける効果は、異なってくる。


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線量当量  

 放射線吸収線量の単位は1kg当りに吸収されるエネルギーの総量といったように巨視的なものであるのに対し、実際の生体内では、吸収エネルギーのミクロな空間分布の違いによって、同一線量でもその放射線から与えられる効果が異なってくる。一般に、放射線による吸収線量が同じでも、線エネルギー付与(LET)が大きいと、生物体内の狭い範囲が集中的に電離するため、晩発障害(発がんや白内障、遺伝的影響等)のリスクが高くなる。
 1962年、国際放射線防護委員会(ICRP)・国際放射線単位測定委員会(ICRU)は、放射線の種類の違いによる人体影響の相違を考慮した放射線防護のために用いる線量に、次式で与えられる線量当量(dose equivalent)を定義した。
 (線量当量 [Sv]) H = (吸収線量 [Gy]) D × (放射線荷重係数) WR 
 本来、吸収線量に掛ける係数WRは、放射線の種類・エネルギー・分布形状・被曝の様態・時間変化のほかに、晩発障害のうち、発がんを問題にするのか、白内障を問題にするのかと言ったことにも影響される値であるが、そのような影響を考慮して決めることは容易ではないので、粒子ごとに、簡便な値が定められている。
 線量当量の単位は、吸収線量と同じ(J/kg)であるが、吸収線量と区別するためシーベルト(Sv)という個別名称が与えられている。
 放射線の生体に対する影響は多義にわたるため、一つの数値に集約させる方法は無数にあり、それに対応して数多くの「線量当量」が存在する。
 線量当量は、放射線防護の目的にのみ使用することができる量であり、言葉を変えて言えば、放射線を利用する計画に伴う将来のリスクを予測評価するための目安である。すでに受けてしまった被曝から個人の、将来がんを誘発する可能性を評価するために用いる値ではない。


生物学的効果比(RBE)
 放射線が物質中を通過する際、飛跡に沿って、単位長さ当りに失うエネルギーを「線エネルギー付与(LET)」という。一般に、線量が同じ場合、LETが大きいほど、生体に対する効果は大きい。基準のγ線に対する生体に対する効果の比を「生物学的効果比(RBE)」と言う。基準のγ線には、通常250keVのX線やコバルト60の1.33MeVのγ線が使われる。RBEは線量や生物効果の種類、被曝の様態、生物効果をどこにおくかなどにより、変化する値であり、定数ではない。
 しかし、防護施策上それでは不便なので、RBEが一定値を持つとして、これを放射線荷重係数(WR)という。

放射線加重係数(WR)
 放射線防護のため、線量当量の計算に使用する取り決めの数値である。
 GyからSvを求めるときに使用される値。放射線被ばくによる確率的影響は放射線種により異なる。将来の発癌リスク等を見積もるために、放射線種による修正を施す必要がある。このための係数を放射線加重係数と言い、次の値が使われる。
 β線、x線、γ線、μ粒子:放射線加重係数は1
 α線、核分裂片、重原子核:放射線加重係数は20
 中性子線:放射線加重係数はエネルギーにより異なる

等価線量 単位:Sv
 各組織・臓器ごとの被ばく量(確率的影響)を知るために使われる値。
 各組織・臓器に対して、平均化された吸収線量に、放射線加重係数をかけた値。放射線種が複数ある時は、それらについて足し合わせる。

組織加重係数(WT)
 放射線防護のための計算に使用する取り決めの数値である。
 各組織・臓器に同じ量の等価線量があっても、発癌率等の確率的影響は同じではない。一部の臓器に被ばくした時や、臓器によって被ばくした線量が異なった時に、全身に対する確率的影響(実効線量)を求めるために、組織加重係数が与えられる。
 国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告した値が使われるが、ときどき変更されるので、最新の数値を使う。

実効線量 単位:Sv
 等価線量は各臓器ごとの被ばくを知るための値であるのに対して、実効線量は低線量被ばくで起こりうる、全身を見たときの発癌率等の影響を知るための値。
 各臓器ごとの等価線量に組織加重係数をかけて、全ての臓器に対して和をとる。

1センチメートル線量当量 単位:Sv
 実際に、人体の各臓器の被ばく線量を測定して、実効線量などを求めることは困難である。国際放射線単位測定委員会(ICRU)は、放射線防護のために、ICRU球の使用を勧告している。ICRU球とは、人体組織を模擬した、密度が1g/cm3、直径30cmの球で、元素組成は、重量百分率で、酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、窒素2.6%である。
 ICRU球の表面からの深さが1pの吸収線量を「1センチメートル線量当量」と呼び、おもに、全身被ばく影響評価に使用される。

70マイクロメートル線量当量 単位:Sv
 ICRU球表面からの深さが70μmの吸収線量を「70マイクロメートル線量当量」と呼び、おもに、皮膚の被ばく影響評価に使用される。

周辺線量当量 単位:Sv 
 人体への影響評価のために「1センチメートル線量当量」「70マイクロメートル線量当量」が使用されることが多いが、ICRU球表面からの深さが1pや70μm以外の場合でも使用されることがある。

預託等価線量 単位:Sv
 放射性物質を摂取した後、その物質の体内における壊変によって放射される線量率を時間積分した値である。積分の期間は職業被ばく及び公衆の成人に対して摂取後の50年間、子供や乳幼児に対しては摂取時から70歳までとする。預託等価線量は、体内の臓器または組織が摂取後同様の期間に受ける等価線量をいう。
 預託実効線量は、放射性物質の体内摂取から受ける臓器または組織の等価線量のおのおのにその臓器または組織の組織荷重係数を乗じて加え合わせたものである。

皮膚面の入射表面線量 単位:Gy または Sv
 X線撮影の被曝の推測に使われる。X線撮影時に、人体内部臓器の吸収線量を測定することは困難なので、代わりに、X線入射皮膚表面の空気吸収線量を測定する。この値の単位はGyであるが、X線の放射線加重係数が1であることから、そのまま、Svと言いかえることもある。

 線量当量を用いるときに注意すべきことは、線量当量が放射線による晩発障害(発がんや白内障、遺伝的影響等)のリスクを記述するための量であるという点です。したがって、放射線治療における投与線量を表すために用いることはもちろん、大量の線量を高い線量率で被曝したときに発生する急性障害(消化管障害・増血機能障害・皮膚障害など)のリスクを記述するために用いることも適切ではありません。また、線質係数を乗じた量であるという意味で、線量当量を含むすべての"放射線防護のための線量"は物理量ではなく、数値的な厳密さを追求すべきものではありません。[3]

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α線、β線の外部被曝  


 人体の外部にある放射線源から生まれる放射線で被曝する場合、外部被曝という。

 α線、β線、γ線には、それぞれ異なった特徴があるため、外部被曝の影響は大きく異なる。
 α線の外部被曝は、人体への影響は少ないが、β線では、粒子エネルギーによって、皮膚への障害が現れる。
 下左図は、α線、β線、陽子線の水中での飛程。また、表の右側には、主なα線とβ線のエネルギーを示す。

α線、β線の水中での飛程 主なα線のエネルギー 主なβ線のエネルギー
核種 質量数 エネルギー
MeV
U 238 4.2
U 235 4.7
Am 241 5.5
Th 232 4.1
Pu 239 5.2
Ra 226 4.8
Rn 222 5.5
核種 質量数 エネルギー
MeV
Ni 63 0.066
Pm 147 0.224
Tl 204 0.764
Sr 90 0.564
Y 90 2.28
K 40 1.31
Cd 109 0.126
Cs 137 0.512
Cs 134 0.658
I 131 0.606


 皮膚と水の飛程は、ほぼ同じ程度なので、水中の飛程よりも深い組織は被曝の影響がない。皮膚の表皮厚さは0.1〜0.3mm、そのうち角層0.01〜0.03mm、真皮は2mm程度であるから、6MeV以下のエネルギーのα線が影響を及ぼすのは表皮のみであり、影響の多くは角層にとどまる。このため、α線の外部被曝は、人体への影響は少ない。

 β線では、照射するエネルギーは同じでも、粒子のエネルギーによって、皮膚への影響が異なってくる。 
 Ni63の0.066Mevのβ線の影響は、飛程が短いので、α線同様、影響は表皮のみである。ところが、0.5MeVよりもエネルギーの大きいβ線の場合、飛程が長くなり、真皮に到達するので、真皮への影響が現れ、β線熱傷を起こすことがある。
 ただし、2MeV程度のβ線でも、飛程は1cm程度なので、影響は深い臓器には及ばず、皮膚以外への影響は少ない。

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X線、γ線の外部被曝  

 X線、γ線は透過力が高いので、外部被曝の影響がある。X線、γ線のエネルギーによって透過力が異なるので、照射する総エネルギー量が同じでも、生体内での吸収エネルギー分布には違いが生じる。

 γ線が物質中に入ると、物質の電子と衝突して、エネルギーを失う。物質中を自由に飛行する平均的な距離を平均自由行程という。平均自由行程は物質により異なるが、平均自由行程の逆数を密度で割った値(これをエネルギー吸収係数)では、物質による違いは小さい。

 最初に、骨と水に対する、γ線のエネルギー吸収係数を図示する。γ線のエネルギーが0.3MeVを超えると、コンプトン効果によりエネルギーが吸収されるので、エネルギー吸収率の値は、物質にあまり依存しないが、0.3Mevより小さいときは、光電効果が主要なので、エネルギー吸収率の値は、物質に依存する。




[4]



この図を元に、幾つかのγ線に対して、γ線の平均自由行程を求めると、次の表になる。

 
γ線
エネルギー
エネルギー吸収係数
(cm2/g)
平均自由行程
(cm)
エネルギー吸収係数
(cm2/g)
平均自由行程
(cm)
20KeV 3.6 0.14 0.55 1.8
50Kev 0.234 2.1 0.0422 23.7
500KeV 0.0307 16.6 0.0330 30.

 医療用X線装置で発生するX線のエネルギーはどの程度であるか、一例を図示する。X線装置で臓器を診断するときは、診断臓器に従って、管電圧と管電流を調整する。管電圧によって、発生するX線粒子のエネルギーが変わる。  胸部レントゲン撮影で肺の中を見るときは、管電圧60kV程度が使われる。骨の中を見るときは、120kV程度が使われることが多いので、図では、管電圧60kVと120kVのときのX線粒子のエネルギーと強度の例を示した。



 管電圧60kVのときは、平均的にみると20keV程度のX線が多く、管電圧120kVのときは、平均的にみると60keV程度が多い。
 管電圧60kVのX線では、生体を貫く量は大きくなく、特に、骨を貫くX線は少ない。管電圧120kVのX線では、生体を貫く量は大きなり、骨を貫くX線も無視できない。これに対して、原子核崩壊のγ線(セシウム137では660keV)の透過力は極めて高く、生体を貫く。
 このように、管電圧60kVのX線、管電圧120kVのX線、γ線を比較すると、照射する総エネルギー量は同じでも、生体内部の吸収エネルギー分布には大きな違いが生じる。
 なお、0.3Mev(300keV)を超えるγ線では、コンプトン効果によるエネルギー減衰がメインなので、2次γ線の影響がある。

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内部被曝  

 放射線源が、体の外部にある時、外部被ばくと言うのに対して、内部にある時は「内部被ばく」と言う。内部被ばくの場合、放射線源が消化管にとどまる場合、身体に吸収されて体のあらゆる部位に散らばっている場合、特定臓器に局在する場合、などがあるので、放射性核種によって、身体への影響は大きく異なる。



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参考書

(1)『わかりやすい 放射線物理学』多田順一郎/著 (1997/12)オーム社
 放射線の物理の教科書であるが、数式の使用が少なく、物理系出身でなくても十分に理解できるように書かれている。

(2)『放射線防護の基礎 第2版』 辻本忠、草間朋子/著 (1992/4) 日刊工業新聞社
 版を重ねて出版されており、現在市販されているのは第3版。
 放射線担当者や関連業務の人を対象に、放射線防護の教科書的な内容。物理の話は少なく、放射線被ばく管理の実務にも役立つ内容。



出典

[1]多田順一郎/著『わかりやすい 放射線物理学』、P173、P174
[2]同上、P187
[3]同上、P207、P208
[4]NISTIR 5632  Tables of X-Ray Mass Attenuation Coefficients and Mass Energy-Absorption Coefficients from 1 keV to 20 MeV for Elements Z = 1 to 92 and 48 Additional Substances of Dosimetric Interest



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