2013年11月 人形峠ウラン鉱山跡 見学



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人形峠は岡山と鳥取の境にある人里離れたところ。

見学できる場所は、次の4つ。
○ウラン坑道跡 (事前予約必要)
○アトムサイエンス館    (予約なしで見学可能)
○人形峠展示館 既に閉館なのかもしれないが、アトムサイエンス館と一体化した施設
○スペースガードセンター (予約なしで見学可能)

 ウラン坑道跡見学の事前予約は、原則2週間前までに申し込み、入場時には身分を証明する書類(運転免許証、パスポート、写真入り住基カードなど)が必要。ウラン坑道跡は、「人形峠環境技術センター」という名称の施設の中にある。
 住所・電話番号はこちら。



今は閉館している人形峠展示館
最初に、ここで説明を聞いた
人形峠環境技術センター入口。
坑道見学にはこの門から入る。ここから先は撮影禁止。



 プリージャーナリスト・西牟田靖氏の著書に『ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影 光文社(2010/12)』というのがある。この本は、日本各地に残る廃墟や歴史的な遺構などの取材記で、この中に、人形峠ウラン坑道の話がある。この本を読んだのは数年前だが、福島原発事故のこともあって、人形峠ウラン坑道を見学したくなった。

 ここは、旧・動燃がウラン採掘・濃縮をしていた。ただし、ウラン埋蔵量は多くはないので、商用に使うウラン燃料を確保するというよりも、実験目的だったのだろう。日本のウラン埋蔵量は少ないため、原発燃料は輸入するしかないので、採掘や濃縮は何のための実験だったのか。そう考えると、将来、核兵器を持つ技術を確保するためだったと考えるのが妥当だろうか。

 見学には、事前申し込みが必要。そして、係りの人の説明を聞いたあと、見学することになる。
 待ち合わせ時間は13時だったが、12時半頃に到着したら、同じ時間に、係りの白水久夫さんがやって来た。ちょっと準備があって、その後、話を聞く。白水さんは今は事務方だけど、もともとは技術者で、ウラン濃縮関係の研究に携わっていたそうだ。話の節ゝに化学の話があるが、物理的なことはあまりなかったので、化学が専門なのだろうかと想像した。
 西牟田氏の本では、案内の人は女性だったとのことであるが、今回案内してくれた白水さんは50代後半のおじさん。

 ウラン鉱山・濃縮の歴史の話などを聞いたあと、坑道見学へ。
 坑道に入る前に、放射線計測器(日立アロカ製サーベイメーター)を貸してくれた。この計測器は、シンチレーションタイプで、正確さに置いて定評がある。新品だと、25万円ぐらいだろうか。
 まだ坑道に入っていないのに0.2μSv/hと高い値を示していたので、ちょっと驚いて白水さんに聞いたら、このあたりは、こんなものだとか。私が住んでいるところは0.05μSv/hなので、関東と山陰の違いだろうかなどと話した。帰ってから調べてみると、岡山県や鳥取県の放射線は0.1μSv/h以下なので、関東と特に変わることがない。人形峠が、高いのか、それとも、測った場所が、放射能レンガを敷き詰めた歩道だったためなのか、良くわからない。
 坑道に入ると、寒いし、風が強い。坑道内は2μSv/h程度に数値は跳ね上がる。ウラン鉱床の壁に計測器を近づけると、数値がどんどん上がって、15μSv/hになった。「日立アロカ製サーベイメーターは10μSv/hを超えても計測できるんだ」などと感心する。こんなところに1年いたら、100mSvを超えてしまうが、壁にくっついて一年過ごす人はいないし、それよりも、坑道は寒くて、長時間いられない。ただし、ウラン鉱石を掘り出すときに、粉塵を吸ったとしたら、健康被害の恐れがあるかもしれない。
 紫外線ライト(ブラックライト)を点灯すると、緑色に光る。これは、燐灰ウラン鉱によるもので、発色はウランガラスと同じ色だ。びっしりと、帯状に光るので、幻想的で美しい。
 坑道の天井は低くて、ずいぶん寒かったので、50mぐらい進んだような気がしたが、実際には20m程度だったのだろうか。

 ところで、白水久夫氏は、サーベーメーターを借してくれたときに、坑内の放射線について、レントゲン検診と比べてどの程度との説明していたが、限りなく嘘ではないかと思い、この件について聞いてみた。
 坑内で被ばくする線量は、30分で1μSv程度だろう。胸部X線撮影は1回で50μSv程度なので、比較すると、X線撮影のほうが格段に被ばく線量が多いと言える。この意味で、白水久夫氏の説明は正しいのだが、本当にそれで良いのか疑問だった。
 X線とγ線の総エネルギーは同じでも、光子のエネルギーはまったく異なる。それなのに、単純に総エネルギーで比較できるのか。赤外線と紫外線の総エネルギーは同じでも、皮膚に与える影響が全く異なることは、だれでも知っているだろう。それなのに、X線とγ線を総エネルギーで比較することができるのか。
 この疑問に対して、白水氏も、X線とγ線の総エネルギーが同じでも生体与える影響が同じとは言えないことに同意していた。
 だったら、X線とγ線を総エネルギーで比較することは、科学的にはナンセンスで、知識のない一般人をだまして、さも原子力が安全であるかのような虚偽を吹聴していることにならないか。原子力産業関係者は技術者としての良心を失って、自分たちの目先の利益の亡者ではないかと思ったが、それを50歳過ぎの白水氏に言っても意味がないので言わないことにした。
 
 それから、白水氏は説明の中で、人形峠では反対運動はないと言っていたようだった。西牟田靖氏の本には、方面地区の人の反対運動の話が書かれていたような気がする。(以前読んだ本のうる覚えなので間違っていたらごめんなさい。)
 住民の生の声を大切にするジャーナリストと、原子力関係者との、住民に対する意識の差なのだろう。
 
 白水氏が嘘をついて見学者をだましているのではない。彼は、誠実に、正しい説明をしていたと思う。しかし、彼の言葉が、一般人に届いた瞬間に、原子力関係者の真実は、巨大な嘘に転換しているようで、悲しかった。 私も、原子力に全く無関係だったというわけでもないし、大学の同級生には、原子力産業を支えてきたものも多いので。


 車で5分ぐらいと道端に、ウラン鉱床路頭発祥の地碑が建てられている。




下の写真は、人形峠展示館かアトムサイエンス館。一体化した施設だけれど、おそらく、人形峠展示館。
人形峠展示館は閉鎖した施設なので、普段は電気がついていないが、この日は、私のために、電気をつけてくれた。


庭の池には、オオサンショウウオ。
体長1mを超える大きなのと、ちょっと小ぶりなのがいる。
写真は、大きい方の頭です。
今上天皇が皇太子時代に訪れた記念碑


岡山県の施設
放射線等観測局舎
向かいは、原子力産業株式会社



放射能レンガ

 人形峠のウラン残土は放射能を帯びているので、廃棄処分も大変だ。そこで、レンガに加工して一般販売を行った。大量に使われた場所は、茨城県大洗市の大洗研究開発センター、東海村の東海研究開発センターなど、関連施設で数十万個単位で使われている。人形峠環境技術センターの歩道にも、多数の放射能レンガが使われている。また、鳥取県・三朝町の三朝温泉入口の国道沿いには2万個の放射能レンガを敷き詰めたキュリー公園が作られた。
 
 普通、レンガは焼き固めるが、人形峠の放射能レンガは、コンクリートで固めただけなので、屋外で使ったものは、すでにボロボロに壊れかかっている。人形峠ウラン残土は特別な処分場で処分する必要があるが、放射能レンガは、放射性廃棄物ではないため、一般ゴミとして処分され、環境にウランが流出する恐れがある。早めに壊れ、ウランが環境に流出して、回収不能になるように、壊れやすいレンガを作ったのだろうか。

人形峠展示館の傘立ては放射能レンガ製 キュリー公園の放射能レンガはボロボロ

 屋内のレンガはしっかりしているけれど、三朝町・キュリー公園や、人形峠環境技術センターの歩道の放射能レンガは、かなり傷んでいた。そのうち、撤去して、環境に廃棄することになるのだろうか。キュリー公園の壊れた放射能レンガのクズが、あたりに散乱していた。
 今のところ、それほど粉々ではなく、粉塵が立つほどではないが、今後、このままにしていたら、粉塵になるほど粉々になるかも知れない。そうなったら、ウラン粉塵を吸い込むことになるだろう。一旦、肺に入ったウランは、生涯被曝を続けることになるので、健康被害の恐れが生じる。三朝温泉には、行かないほうが良いかな。

キュリー公園
ここは、放射能レンガで作られている
キュリー公園の夫妻像 おまけ
キュリー広場の婦人像

注)キュリー広場は、三朝温泉の中心にあり、キュリー夫人の胸像が建てられている。放射能レンガとは関係ない。


ウランガラス

 ガラスにウラン化合物を添加すると、ガラスが黄色みを帯びた緑色に発色する。 添加するウラン化合物は、重ウラン酸ナトリウム(Na2U2O7)だと思う。
 ウランガラスは、1830年代にボヘミアで作られるようになり、日本でも、戦前にはたくさん作られたが、戦後は、ほとんど作られなくなった。
 人形峠環境技術センターでは、ウランガラス材料を作っており、岡山県苫田郡鏡野町にある『妖精の森ガラス美術館』では、このウランガラス原料を使って、ウランガラス製品を製造し販売している。下の写真は『妖精の森ガラス美術館』。



 ウランガラスは、燐灰ウラン鉱同様、紫外線を当てると緑色に発色する。
 
 妖精の森ガラス美術館を見学したが、ウランガラス製品はちょっと高かったので購入しなかった。ウランガラスは、かつて、大量に作られたので、現在でも、コップなどが残存していて、骨董品として、比較的安価に入手できる。また、壊れたウランガラス製品から、別の製品に作り直したものもあるようだ。


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