竹島問題参考書


『竹島に行ってみた!マスコミがあえて報道しない竹島の真実』 古谷ツネヒラ/著 (2012/11/16) 青林堂



 現在、竹島は韓国の実効支配下にあるので、竹島に上陸するためには、韓国の国内法に従った外国旅行となる。このため、日本政府は、日本国民に対して、韓国領であるとの前提に立った竹島旅行を自粛するように求めている。

 本書は、日本政府の自粛要請を無視して、竹島に上陸した時の旅行記。個人の考えが日本政府と違うこともあるので、韓国の実効支配に有利になるような旅行も悪いとは言えないが、著者は、このような旅行が、国際政治の場で、日本の領土要求に不利になるとの理解がないように見受けられる。
 日本政府の自粛要請を無視する形で竹島に旅行したジャーナリストには、西牟田氏や山本氏などがおり、それぞれ著書がある。

 本書は竹島旅行記であるが、鬱陵島の独島博物館の見学記なども含まれる。しかし、一冊の本を書くには内容が乏しいと見えて、話が冗長。韓国渡航に際して、ヨドバシカメラで電気コンセントの変換アダプターを買った話など、どうでもいいようなことが、グチャグチャ書かれている。また、鬱陵島から竹島に渡航した高速フェリーで船酔いした話が事細かに書かれている。船酔いしたことを書くのはよいが、話が冗長すぎ。読んでいて、面倒になる。ジャーナリストである西牟田氏の本と比べると、著述の力量の違いを感じる。

 本書には写真も多い。印刷が悪いのは仕方ないが、それにしても、使用カメラの歪曲が大きい。もう少し、高級カメラ・レンズを使うべきだろう。竹島のカラー写真もあるが、露光調整すれば、もっと良い写真になったろうと思え、残念である。また、構図を考えて、フットワークを使って、撮影すればよいのに。展示パネルを撮るときは、なるべく正面から撮って、歪みがないようにする必要があるので、P48の写真など、普通は少しかがんで撮るところだが、著者は漫然と突っ立ったまま撮影したのだろうか。

 解説でも、おかしな記述が多々見受けられる。特に、P94に独島博物館展示の北朝鮮切手の写真があるが、韓国切手であると誤った説明をしている。本の写真では不鮮明であるが、実物の切手には、国名がDPR KOREAと書いてあるので、北朝鮮であることはみれば容易にわかるはず。英語の国名がわからなくても、ちょっと調べれば、容易にわかるはず。展示品をろくに見もしないで、先入観で、いい加減なことを書いているとしか思えない。
 旅行記としての解説以外にも、一般知識もなっていないようだ。P34には、浦項でハングルが読めないために場所が分からなくて困った話があるが、ここで、「表意文字である漢字の偉大さを知った」などと、頓珍漢な事を書いている。漢字が分かるのは、日本の文化が中国文化を移入することで発達したためであって、表意文字の問題ではない。実際、表意文字であるトンパ文字で書かれたって、日本人には理解できない。

 鬱陵島の独島展望台から、竹島が見えなかったとの章がある。要するに、空気が少し濁っていて、見えなかっただけのことだ。
 2005年ごろ、ネット上では「鬱陵島から竹島は小さくて見えない」などと、おバカなことを書く人がいた。著者もこの程度の知識と同類なのだろうか。書かれている内容があまりにもばかばかしい。両島の距離や竹島の大きさが分かっているのだから、どのような気象条件のとき、どの程度に見えるのかということは、容易にわかることだ。特に、見えるときの大きさは、Excelで簡単に計算できるので、小さくて見えないなどということがあり得ないことぐらい、誰だってわかるだろう。現在、望遠レンズで撮影した竹島の写真は、いくつも公開されている。肉眼で凝視したように写るレンズは望遠レンズなので、望遠レンズで撮影することは当然だが、カメラの知識がない人は、肉眼で見えるものはコンパクトカメラに絶対に写るかのような錯覚を起こしているので、たちが悪い。本書の著者も、本書を読む限り、同じような無知を振りまいているように感じる。しかし、ジャーナリストがカメラ知識に乏しいなどということが有り得るのだろうか。

 領有権問題に対して、下條正男説を絶対視しているようだ。それは、それでよいのだが、独島博物館の解説が、日本でも批判のある下條説にのっとっていないのは当然のこと。下條説にのっとっていないので正しくないとか、正しいとか、そういうことではないだろう。竹島領有権に関する著書は、日本でもいくつも出版されているので、賛否はともかく、それらを理解したうえで、独島博物館の展示や解説を考えてみれば、著者の記述は、もっと幅広いものになっていただろう。せっかく見学したのに、残念だ。


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