竹島問題参考書


『竹島とナショナリズム』 姜誠/著 (2013/6) コモンズ



 在日韓国人による竹島問題の解説と解決のための提言。
 在日の人にとって、領土問題で紛糾することは、困ったことだろうから、何とか両者痛み分けの解決方法を模索した末の提言なのだろうけれど、両国にとって受け入れ可能な案には、なっていないような感じがする。

 竹島問題の解説の部分は、日韓どちらにも偏らず、中立的な観点で書かれている。しかし、このような解説は、内藤正中氏をはじめ、いろいろな先人によってなされたことなので、今更この本を学習する必要性は感じられない。ただし、よくまとめられていて読みやすいので、竹島問題の経緯を今一度確認するために、読んでおいて損はないだろう。

 著者は、竹島問題を固有の領土問題ではなく、両国周辺地域の国境画定問題と捉える。そして、両国で主張されている「固有の領土」論を否定する。固有の領土とは、日本で、冷戦時期に北方領土問題を梃子に、ソ連に対抗する勢力を日本国内世論に形成するために使われた面があった。このような冷戦時期の残滓を、引きずっていても、領土問題が解決されないのは当たり前なので、著者の主張は、当然だ。
 しかし、冷戦終結後も、北方領土問題などで、固有の領土主張は終わらない。領土問題対立で、返還運動関係者に税金が落ちる仕組みが出来ており、このような利権に預かる、利権屋が、おいそれと手を引くことはない。本書には、このような視点がないので、単なるきれいごとのように感じる。

 2012年に李明博が竹島に上陸し、2013年に安部内閣が河野談話を見直すとの発言があった。この問題で、著者はP28に、「李大統領への反発が強まる中で、河野談話の見直しを安部総裁らが強く主張する事態になりました(途中一部省略)」としているが、これはちょっと、著者の認識不足だ。日本国内には、戦争を反省する勢力もあるが、一方で、日本の過去の歴史を輝かしいものであると考える勢力も存在する。河野談話を見直そうとする見解は、日本には以前からあり、李明博の竹島上陸が直接の原因ではない。

 竹島問題の歴史認識にも、若干の疑問点がある。P37にサンフランシスコ条約で、米国の方針が揺れ動いたと指摘されている。サンフランシスコ条約交渉当時、韓国は、勅令41号を根拠に、1900年に竹島を領有したことを、米国に領有主張していたかのような記述になっているが、実際にはそのようなことはなく、韓国は具体的根拠を米国に示していなかったはず。


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