日本会議地方議員連盟/編集『防人の島「対馬」が危ない!』 明成社 (2009/4)
五十数ページの薄い本。本の内容には少々あきれた。対馬の過疎化・高齢化以上に、地元議員の劣化が進んでいるのだろうか。
対馬は朝鮮半島に近いので、近年韓国人観光客が増大している。しかし、対馬の人口はS35年には7万人程度だったのに、現在では3万人程度と大幅に減少し、また、高齢化も進んでいる。
本書は、日本会議の地方議員を中心に、対馬が韓国に奪われる危機であることを解いて、特別立法が必要であることを主張するもの。対馬では、韓国資本が観光開発に入り、一部の土地を買っていることは事実だ。人口減少と韓国人観光客の急増により、島内には韓国人がいて、ハングルの掲示板を見かけることも事実だ。このため、国土防衛上好ましくないと考える気持ちもわからないではない。
国境の町は、国境貿易・交流を通じて発展してきた。江戸時代の対馬も朝鮮と日本の交流の拠点として潤っていた。このように考えると、過疎地の対馬が韓国人観光客によって活性化することは好ましいことだ。また、韓国資本が投入されて、観光開発がなされることも、国境の町の発展には好ましいことと言える。
しかし、本書では、韓国人観光客の増大と韓国資本によって国境の町が乗っ取られるのではないかと危機意識を主張している。日本人住民が減少して、韓国人住民が増加すれば地方自治・国境防衛に問題が生じる可能性はあるが、観光客と住民とは異なるので、本書の主張は、少々的外れな感じがする。もっとも、気付いたときには手遅れとならないように、国家防衛を早手回しすることは必要なことで、そのために、危機意識を誇張しているのならば、それは理解できる。
ただし、本書の主張する対策はお粗末で情けないものだ。日本の離島では、小笠原・奄美・沖縄に対して復興特別処置法があるので、類似の法律を対馬にも作るように求めている。しかし、小笠原・奄美・沖縄は終戦後占領された地域が日本に復帰したために、特別処置法が制定されたものであるのに対して、対馬は一貫して日本の領土なので、小笠原・奄美・沖縄の例は参考にならない。また、本書の最後に特別処置法の制定を求める長崎県神道議員連盟会長の要望が記載されているが、これによると、要するに「現在実施されている離島振興の枠を超えた抜本的な各種施策」を求めているもので、具体的な中身が全くない。常識的に考えたら、対馬の振興は、韓国資本を導入して、韓国人観光客を増やすことだ。これを否定しながら具体策もなく「なんとかして」と言っても、難しいだろう。地元の振興策は、地元を一番よく知っている、地元議員が具体策を練らない限り、話は進まない。
戦前・朝鮮半島との交通の拠点として栄えた敦賀は、戦後になって、その機能が失われると、一気にさびれてしまった。そのような状況を立て直すために、敦賀市は原発を積極的に誘致して町の発展につとめた。特に危険と思われていた『もんじゅ』も敦賀に作られた。敦賀の例を参考にすれば、韓国人観光以外の方法で対馬が発展するためには『高レベル放射性廃棄物最終処分場』の誘致が現実的な解決策だと思う。そうすれば、韓国人観光客も減るだろう。ところが、対馬市議会は2007年に誘致反対の決議をしている。「あれもだめ、これもだめ、対策はないので何とかしてくれ」では情けない。