日韓関係参考書

加藤直樹/著『トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』 ころから株式会社 (2019/7)

 関東大震災のときに起こった朝鮮人虐殺は高校日本史教科書・山川出版詳説日本史には当然記載されているので、普通に、高校で日本史を履修した人には疑いのない事実だろう。また、中学日本史教科書にも記載されているので、中卒者や、偏差値の低い高校にしか入れなかった成績不振者でも、知っている人は多いだろう。
 しかし、近年、無知なネット右翼の中には、この史実が理解できない人も多いようで、関東大震災のときの朝鮮人虐殺はなかったと信じ込んでいた人もいたようだ。最近は、このようなトンデモ説を、あからさまに言う人は少なくなっているように思う。
  
 関東大震災の時の朝鮮人虐殺は明白な史実であり、この点について疑いを持つ近代日本史学者はいない。本書は最初に、朝鮮人虐殺が明白な史実であることを、資料を基に説明する。
 新しい歴史教科書をつくる会(西尾幹二創立)副会長や国家基本問題研究所(桜井よしこ代表)評議員を務めた工藤美代子(本名・加藤美代子)夫妻は関東大震災の時の朝鮮人虐殺はなかったとするトンデモ本を出版した。この本が、ネット右翼たちのバイブルとなっていたことがある。
 本書では、工藤美代子のトンデモ説は実は捏造であるとして、そのトリックの手口を明らかにしている。
 第一のトリックは、混乱していた震災直後の「朝鮮人暴動」記事を無批判に「事実」として掲げて「朝鮮人暴動」実在の証拠として示すことである。そして、新聞を含むそれ以降の記録によって震災直後の「暴動」記事の内容が否定されていることについては一切言及しないことである。『なかった』の全編にわたって繰り返されているのが、この手法だ。
 第二のトリックは、「朝鮮人暴動」が後に事実無根の流言として否定されていった理由を「政府の隠蔽」に求めながら、その唯一の証拠として、他人には検証不可能である工藤夫妻の亡父の証言なるものを掲げることである。しかも証言者の正体を「隠蔽」する。
 第三のトリックは、朝鮮人被殺者の推計にあたって、初歩的な数字の詐術を用いてこれを極少化することである。
 第四のトリックは、虐殺の実態を伝える手記から都合のいい部分だけを切り取って引用し、反対に「朝鮮人暴動」の証言に仕立てるものである。
 第五のトリックは、史料の引用にあたって、(略)と示すことなくこっそりと切り刻み、虐殺否定論にとって都合の悪いところを隠すことである。それをしかも「凡例」で居直っている点で、このトリックには出版社も加担している。
 第六のトリックは、朝鮮人のテロ計画の具体性を語る上での根拠として、重要な資料を参照元として示しつつ、しかし実際にはそこに書かれていないことを「参照」してみせることである。
 第七のトリックは、一般読者が知らないであろう事柄について意図的に虚偽の説明をすることである。ここでは在野の人による労作を「かなり公の刊行物」と偽っていることを一例として指摘した。
 「第一のトリック」「第四のトリック」は著者の言うようにトリックだろうか。小学校のときから、頭が悪くてまともに本が読めない人が、本の一部を自分に都合よく抜き出して理解することは珍しくない。著しく理解力のない人に共通する性向のようにも思える。
 「第二のトリック」は、精神異常による妄想癖にも見える。
 「第三のトリック」は、単に算数ができないだけではないか。
 このように考えると、工藤美代子のトンデモ説は知的能力が低く、若干精神異常がある人の妄想のように思える。

 いずれにしても、本書を読むと、歴史修正主義者(自分たちに都合よく歴史を捏造する人たち)の手口が分かる。 もっとも、工藤美代子ほど、低レベルで稚拙なトリックをそのまま使う人は、ネット右翼のおバカさんでも多くないかな。


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