北方領土問題参考書



『論点整理 北方領土問題』 石郷岡建/著、東洋書店 (2012/04)(ユーラシアブックレット)



 北方領土問題が日本で語られるとき、日本政府に都合のよい主張のみが繰り返される傾向にある。
 本書は、中立的観点から、日ロの論点を整理したもの。北方領土問題に関心のある人は、一通り目を通しておく価値がある本だ。ただし、60ページあまりと短いので、詳しいことには触れられていない。
 日ロ両国が千島を認識したあたりから記述が始まる。ただし、それ以前から住んでいたアイヌに関する記述はない。
終戦までの記述が全体の1/3、1956年の国交回復までだと全体の半分になる。残りの半分はソ連崩壊直前のゴルバチョフ訪日から現在に至る日ロ交渉。

 ページ数の少ない本なので、疑問点も少ないが、それでも、ちょっと首を傾げたくなる記述がある。

 太平洋戦争末期、テヘラン・ヤルタの合意にしたがって、ソ連は日本に宣戦布告した。日ソ中立条約の残存期間であったため、日本ではソ連を非難する論調が大きい。しかし、ポツダム会談のとき、米国は公文書により、ソ連の参戦は国際法上合法であるとの公式見解を示していることもあり、戦後国際社会においてソ連対日参戦が問題となったことはなかった。ロシアではナチス同盟国との戦争は正義の戦争なので対日参戦の正統性は自明なことと考える人が圧倒的であるが、米国公式見解を持ち出して中立条約残存期間でも参戦は国際法上合法であると説明することもある。本書では『日ソ中立条約を持ち出すと、ロシア側は無視するか肩をすぼめのが普通である』と書かれている。この問題に関心のないロシア人の意見だけを、ロシア側の研究者の見解と思い込んでいるのだろうか。

 本書の最後に、『北方領土問題については領土の返還が目的なのか、ロシアの不正義、悪を糾弾し、謝罪させることが目的なのか、日本社会では、はっきりした見解の一致がない』と書かれている。前者の見解の人がいるのは確かだし、右翼勢力を中心に、後者のように言う人もいるだろう。しかし、法律上は、1956年の日ソ共同宣言に次のように明確に示されている。「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」このため、外交交渉として、後者の立場はありえない。


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