北方領土問題参考書
和田春樹/著『領土問題をどう解決するか 対立から対話へ』 平凡社新書(2012.10.15)
著者は、ロシア史が専門であり、北方領土問題で日本政府の論に反対する論客として有名。本書は、日本の領土問題である、北方領土・竹島・尖閣の解説であるが、大半は北方領土問題に当てられ、竹島・尖閣は少ない。
本書は、「固有の領土」論の欺瞞性を指摘し、領土問題の解決のために、「固有の領土論」を捨てることを主張する。
そのうえで、北方領土問題の経緯と、クナシリ、エトロフを日本が放棄した事実を指摘し、2島返還+αの解決を主張している。
領土問題では、浅薄なナショナリズムを刺激し、過剰な要求に国民を酔いしれさせる勢力が存在する。しかし、このような要求が、外交交渉で通じるはずもなく、現実には、フィフティー・フィフティーの妥協になる。著者の主張は、冷静に史実を見つめることにより、現実的な解決方法を提示するものであるため、勇ましいことを、日本語だけで唱えて自己満足する人には、著者の説は、受け入れがたいかもしれないが、現実を直視することは必要だ。
ところで、サンフランシスコ条約会議で、米国国務長官ダレスは、日本が放棄した千島に歯舞は入らないというのが、米国の考えであると発言した。1986年の岩波書店「世界」12月号には、著者の論文が掲載されているが、この中で、「色丹島と歯舞諸島というべきところを、言いまちえたと解釈される」としていた。しかし、本書では、地理学上の常識として、シコタンは千島(クリル)に含まれることを指摘し、ダレスの発言は、歯舞が千島に含まれないという、地理学上の常識を確認したものとしている。著者の考えが、変わったのだろうか。