北方領土問題参考書
小笠原信之、 大沼安史/著『「北方領土問題」読本』(2012/11)緑風出版
北方領土問題の総合的な解説書。冷静な分析に好感が持てる。
北方領土問題をまじめに考えてみようとする人には大いに参考になる。日本の一部勢力の政治的主張のみを怒鳴り散らしたい人や、日本はすばらしいと根拠のない妄想で、自慰に耽りたい人には向かない。
本の内容は、北方領土問題を18のテーマ間に分けて、それぞれについて解説している。北方領土問題の歴史的経緯、冷戦下の米ソ対立と北方領土交渉の関係、ソ連崩壊後の領土交渉など、内容は、北方領土問題をほぼすべて網羅している。
本書は、小笠原信之が17項目を書き上げた後、急逝したため、大沼安史が最後の結論にあたる「まとめ」を書いたもの。小笠原は原稿執筆段階で急逝したため、執筆内容を十分に推敲していない可能性もあり、記述には、若干疑問の箇所や誤った記述もある。
たとえば、P9に、サンフランシスコ条約にソ連が加入していないことを説明した後、「ロシアとの間で、まだ戦争状態が継続していることになります」とあるが、1956年の条約により、戦争状態は終結したので、この記述は誤りだ。
また、他書を引用している箇所がいくつもあるが、これらは本のタイトルのみで、ページ番号が記されていないので、更なる学習をする上で、多少不便に感じる。
このように、細かいことを言えば、いろいろと問題はあるかもしれないが、全体としてみると、非常に冷静な分析であり、文章も読みやすく、北方領土問題を考える上で欠かせない良書の一つだろう。