北方領土問題参考書



山本皓一/著『日本の国境を直視する 2  竹島・北方領土』 (2012/12) KKベストセラーズ




この本は、読むことをお勧めしない。

 同じシリーズに、『1 尖閣諸島』がある。どちらも全体の半分弱が写真。尖閣の写真は珍しく、できばえも良かったが、北方領土や竹島では、写真や動画はそれほど珍しくもなく、また、本書の写真のできばえが特に優れていることもないので、写真集として見た場合、たいしたことはない。
 本文の半分が竹島問題で、残りの半分が北方領土問題。日本に都合の良い解釈だけであるうえ、事実関係も正確さを欠くため、この本を読むよりは、無料で外務省が配布しているパンフレットやpdfファイルを見たほうがずっと正しい理解が得られるだろう。

 日本政府は「竹島は日本の固有の領土である」と主張しているが、実際には韓国の実効支配下にあるので、竹島に上陸するためには、ここが韓国の領土であることを前提として、韓国政府の手続きに従う必要がある。しかし、このような方法で、竹島へ上陸することは、日本国民が竹島において、韓国の管轄権に服し、竹島に対する韓国の領有権を認めたことに通じるため、日本政府は日本国民に対して竹島に上陸しないように要請している。
 しかし、日本政府の要請を無視して、竹島に上陸したことのある日本人は少なくない。フリージャーナリストの西牟田靖氏もその一人であるが、西牟田氏は事実を取材し、有りのままに報道することを目的としたジャーナリストであるため、氏の行動には一貫性があり理解できる。本書の著者である山本皓一氏も日本政府の要請を無視して、竹島に上陸したジャーナリストであるが、山本氏は竹島日本領論者であるため、氏の行動は理解できなかった。本書P104に日本政府の要請を無視して竹島に上陸した理由が書かれている。

 島への渡航方法が問題なのではなく、日本人が、自分たちの立場で撮影した写真や映像を使用して報道することが重要なのであって、「どうせ同じだから」と何も考えずに韓国の映像を使ったりするような感覚の報道が続く限り、日本人が竹島について正しい理解を得ることはできない。韓国人が撮影した映像は「独島」であって「竹島」ではない。この意味の違いを理解せず「大統領が上陸したのは許せない」と言うのはおかしいのである。小さな建前にこだわるよりも、どんな方法でも良いから自分のカメラで写真を撮る。それが私の信念であり、今後も必要があれば、「竹島行き」を敢行しようと思っている。

 勝手な言い分だ。山本皓一氏は、韓国政府にパスポートを提示して韓国に入国し、韓国滞在外国人の身分で、鬱稜島から「独島」観光船に乗船して、島に上陸している。そこが、韓国領独島であることを前提とした上陸であって、山本氏が、勝手な屁理屈をこねまわしても、日本国民の一人が、韓国領独島に上陸した事実には変わりは無い。
 韓国側の映像を使うのが嫌ならば、第三国人カメラマンに依頼して撮影すれば良いではないか。そもそも、日本人である必要がどれほどあるというのだ。もし仮に、「日本は中国固有の領土」とイカレタ考えを持っている中国人がいたとする。彼が、東京に観光に来て、写真を撮ったら、「日本は中国固有の領土」との認識が得られるとでもいうのだろうか。

 本書のレベルの程度は、北方領土の章にも表れている。P187に次の記述がある。類似の記述は多くの書籍に書かれているので、特に珍しいことではないのだが、「明らかに終戦後」と書いてしまうところがいただけない。

 日本がポツダム宣言受諾を連合国に通告したのは8月10日のこと。軍部の反発があったため受諾の正式決定は8月14日まで延びたが、ともあれ、遅くとも第二次世界大戦は8月14日をもって終結している。ところが、ソ連が千島列島に進軍して北方領土を含む日本の領土を占領したのは、明らかに終戦後なのである。

 日経新聞電子版には池上彰の東工大講義が連載されているが、このうち2012/9/24には、以下の記事がある。

 今回は戦後の日本がどのように復興していったかを振り返ります。東日本大震災からの復興を考えるにあたっても、参考になる点があるからです。これが「歴史に学ぶ」ということです。まずは君たちに質問しましょう。太平洋戦争が終わったのは、1945年のいつかな?
学生A 9月2日です。
 あっちゃー。8月15日と答えるかと期待していたけど、ちゃんと答えたね。さすが東工大の学生だ。 (以下省略)

 「さすが東工大の学生」は、9月2日を知っているのに、山本皓一氏の才能では、この日付までは理解できなかったのだろうか。山本氏の出身大学である日大芸術の駿台偏差値は45程度、東工大は61程度と大きな開きがある。私大と国立の偏差値を単純に比較できないが、この違いは大きい。成績不振で、偏差値45程度の私大にしか入れなかった人が、その後もまじめに勉強することがなかった結果・・・、この本を読んでいるとそんな気がしてくる。
 日大芸術のためにちょっと補足。芸術系や体育系は、学科試験の他に実技が要求されるので、学生の能力を単純に偏差値だけで判断することはできない。しかし、学科の偏差値が低くても入れることは確かだ。


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