大西秀之/著『トビニタイ文化からのアイヌ文化史』 同成社 (2009/03)
ちょっと古いが、読み応えのある本だ。
5から10数世紀ごろ、アムール河口域・樺太・千島・カムチャツカ・北海道北部・北海道北部のオホーツク海沿岸地域に、オホーツク文化が起こっている。この時期、北海道では擦文文化だった。オホーツクは突如として消滅するが、北海道東部ではオホーツク文化を引き継ぐ形でトビニタイ文化が起こった。この文化は、擦文文化とともに消滅して、北海道はアイヌ文化になった。
本書は、トビニタイ文化の研究書。トビニタイ文化については、北海道古代史の中で数ページ触れられた本はあるが、1冊の本にまとめられたものは本書が唯一だろう。
本書は、第1章でトビニタイ文化の研究の現状をまとめ、第2章ではトビニタイ土器と擦文土器の関係を考察し、トビニタイ文化の遺跡で発見される擦文土器の多くも模倣品であることを示す。また、トビニタイ文化の住居スタイルを考察し、トビニタイ文化の担い手はオホーツク文化の末裔であることを明らかにし、鉄器の輸入など擦文文化の交流を考察している。第3章では、トビニタイ文化の居住地など生業を考察する。トビニタイ文化の担い手たちは、サケ漁が主であったことを明らかにする。第4章では、トビニタイ文化が成立したいきさつとして、擦文文化との関連の他に、律令制の中での東北との関係についても考察している。
本書は研究書なので、発掘などの事実と、それに基づく推察と示され、何が事実で何が推量なのであるかが明確に分離されていて、読んでいて混乱しない。
事前知識がないと、読むのが難しい部分もあるが、多くは素人でも十分に理解できる記述になっている。トビニタイ文化の概要を結論だけ知りたい人には、詳しすぎる内容かもしれないが、じっくり理解したい人には、十分に読みごたえがあり、読んでいて、おもしろい。
中世の地球高温期に栄えたオホーツク文化が寒冷化で滅んでゆく過程で、道東のオホーツク文化人たちは、生業を変え、擦文文化と交流することで、生き残りを図ったのだろう。最後は、擦文文化に吸収される形で消滅し、次のアイヌ文化の一部へと変容していった。それが、トビニタイ文化なのだろう。