北方領土問題参考書

本田良一/著『証言 北方領土交渉』中央公論新社 (2016/12)
 

北方領土交渉過程が詳しく記載されている。
ゴルバチョフ時代から2016年ごろまでの北方領土返還交渉について非常に詳しい。
 
 第一章は1945年の終戦から1973年の田中ブレジネフ階段までの期間をざっくり触れている。この時期が北方領土問題の起こりと問題の理解に最も重要なはずなのだが、この期間が詳しくない。特に、田中ブレジネフ会談の記述はおかしい。
 田中ブレジネフ会談では、共同声明に「未解決の問題」と入れることを日本が求めたのに対し、ソ連がこれを拒否して共同声明が出せない事態になった。結局、共同声明には「未解決の諸問題」との文言を入れ、日本とソ連がそれぞれ別個に記者会見を行いお互いの内容にはコメントしないということで決着した。日本は未解決の諸問題に北方領土問題が含まれるとの解釈を発表した。当時の新聞を読むとそれだけなのに、その後、「田中角栄が未解決の諸問題に北方領土問題が含まれるかとブレジネフに確認したところ黙ってうなづいた」との話が自民党サイドからまことしやかに語られ、さらに時代がたつと「ダーと答えた」などの説明もなされるようになった。

 領土交渉はお互いが妥協するものだが、一方で国民向けに政治家の政治宣伝でもある。このため、交渉当事者は後で自分の選挙に有利になるような説明をするものである。特に、日本の場合、北方領土交渉の議事録が公開されることがないので、高所当事者が選挙区向けの嘘を言っても検証できない。

 本書では、田中ブレジネフ階段で、ブレジネフが「ダーと答えた」ことが事実であるかのごとき記述がされている。このため、本書は、北方領土交渉を正しく記述したものというよりも、日本の政治家の選挙区向け宣伝が事実であるかのように書かれている危険性を頭に入れて読んだほうが良いだろう。

 第2章以下は、「ゴルバチョフ時代」「ソ連崩壊期」「エリツィン時代」「プーチン時代」と各時代ごとの北方領土交渉過程が詳しい。

最終更新 2022.2


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