領土問題参考書
すぐわかる日本の国境問題 山田吉彦/著 海竜社(2013.12)
日本の領土問題について、要領よくまとめられている。基本的には、日本政府の主張と同様な主張で、政府が無料で配布している資料の範囲を超えた内容は多くない。また、著者は、テレビの解説等にも出演しているため、新味のある内容はほとんどないように感じる。
本は300ページを超える分量ではあるが、字が大きく、本の厚さの割には、内容が薄い。このため、すでに、日本の領土問題に対して、ある程度、知識のある人は、特に読む必要はないかもしれない。
ざっと読むと、上記のようなのだけれど、注意して読むと、おかしな記述が多々ある。読者をだます悪意で書かれた本とは思いたくないが、真相はどうなのだろう。
P102に 「尖閣諸島は明の時代から中国領だった」はウソ の項がある。
しかし「釣魚島」などは単に目印、通過地とされているだけで、明に属すると書いてあるわけではありません。むしろ、琉球の人々は、尖閣諸島を「ユクン・クバジマ(魚が獲れビロウが茂る島という意味)」と呼び、サバニという小型船を操り漁に出ていました。琉球の人々の海だったのです。
これを、普通に読むと、明の時代には、琉球漁民が尖閣にサバニで出漁していた、と思うだろう。しかし、琉球の中で、尖閣に一番近い、先島でも、距離は170kmあるので、製氷設備がなければ、魚をとっても、腐敗せずに、持ち帰ることは不可能だ。19世紀中期以前に、琉球漁民が尖閣に出漁していた事を示す資料は無かったはずだが、著者は何を書いているのだろう。
しかし、本をよく読むと、琉球の人々の話は、いつの時代とは書いていない。だから、明治以降の琉球の話でも、ウソではないが、こんな記述をしないと、著者の論は信憑性がないのだとしたら、お粗末というしかない。
P95の次の記述も、意味不明だ。
どこの国の支配も及んでない無人島(無主地)を発見した国が、どの国よりも先んじて領有の意思を表明し、実効的支配体制を確立することによって領土に編入することです。
尖閣諸島に当てはめると、無主地は、明治政府が1884年の古賀氏による探検から10年かけて、無人島であり、清も含めてどこの国の支配も及んでいないと確認しました。
明治政府が10年かけて、清の支配が及んでいないと確認した、とするならば、10年間、何をして確認したのか。役人は何もしないときに「善処する」と言うし、10年間ほったらかしておいた場合、「慎重に確認した」と言うものだ。どのようにして確認したのかが分からなければ、役人のデタラメ作文と違いがなくなってしまう。
さすが、海洋政策の専門家と思える記述もある。
P154〜P157には、中国が尖閣の領有を主張する理由として、石油資源・漁業資源・軍事上の問題、の3点が書かれていて、巷間に言われる、石油資源だけではないことが説明されている。領土問題は、国家主権に関係する重要な問題なので、単一の理由で割り切れるほど単純でないが、石油資源が唯一の理由であるような、いい加減な解説本が多い中、本書は、まともな解説になっている。
しかし、P99には、「ねらいは東シナ海の海底地下資源にあったといわれています」と書いているのは、どうしたことだろうか。確かに、いい加減な評論家や、いい加減な解説本では「海底地下資源にあったといわれていいる」が、著者はまともな研究者なのだから、自分の見解を示すべきだった。
竹島問題に関して、不思議な記述がある。
P222〜P224に「韓国併合と竹島は関係あるの?」との項があり、このなかで、「朝鮮半島支配ではなく、むしろ日露戦争だった可能性があります」と書いているが、本当に著者本人が書いたのだろうか。
手元にある中学生用歴史教科書を調べてみたら、日露戦争と韓国支配の関係が説明されているので、普通に日本の中学校で学んだものならば、日露戦争と関係が有るならば、朝鮮半島支配と関係があることは、容易に分かるはず。