領土問題参考書
地図と年表で見る日本の領土問題 浦野起央/著 三和書籍 (2014/8)
読むことを勧めない
一般大衆向けに、おおざっぱな知識を得るために書かれた本なので、詳細内容が無いのは仕方ないが、この本は、記述がずさんすぎるように感じる。
本の内容は、日本の領土問題である「尖閣」「竹島」「北方領土」の説明の他に、領土の一般論と、領土境界防衛について記されており、全部で5章になっている。イラストや表が多くて、視覚的に捕らえやすいが、そのぶん、詳しい内容はない。領土問題の解説はおおむね日本政府の主張に沿っている。
北方領土問題は、76ページから95ページまでの合計20ページ。
最初の76ページからおかしなことが書いてある。
「日本は、この北方4島を本来の領土であるとして返還を要求しており、たとえ未返還であっても、根室市に属するとしている。」
これは、アヤマリでしょう。根室市役所のホームページを見ると、平成25年度の根室市の面積は512.73q2(面積は歯舞群島の面積を含む)となっているので、根室市に、色丹島・国後島・択捉島は含まれていない。北方領土に、本籍を登録することが出来るが、この事務処理を根室市が代行しているので、このことと混同したのだろうか。
次の78ページは、江戸時代のこの地域の歴史が書かれている。
「徳川家康から北海道の統治を委ねられていた松前藩」と書いている。慶長9年徳川家康の松前慶広宛黒印状では、アイヌはどこへ行くにも勝手とされていたので、松前藩が北海道統治を委ねられていたのではない。日本人が、アイヌと交易するときの管理を委ねられていたのでにすぎない。
さらに、80ページには、日ソ領土交渉について書かれている。ここも、何を書いているのか。
「ロシア政府の公式見解は、日ソ共同宣言に基づいた平和条約締結後、歯舞・色丹の2島だけを引き渡す2島譲渡論(返還ではない)である。」
確かにソウなのだけれど、日ソ共同宣言で、「引き渡す」となっているのだから、実際の領土交渉では「引き渡す」であって、日本政府が国民向けに宣伝している「返還」の用語が使われることは期待できないだろう。日ソ共同宣言の用語が使われることに、何か、問題でもあるというのだろうか。
北方領土問題以外も、もう少し、内容を吟味欲しい。
以前、日本政府は、竹島と鬱陵島の距離を92kmとしていたが、1年前には、88kmに修正された。この本は、昔の92kmになっている(P59)。本の表紙に「緊急出版」と書くならば、最新の知識を使って欲しいものだ。
尖閣問題でも、もう少し、正確な記述をして欲しかった。
何箇所か、中国船の領海侵犯と書かれている(P46など)。領海は、領土や領空と異なって、無害通航権があるので、進入したからといって、侵犯になるわけではない。最近のニュース報道でも、ほとんど領海侵入と言っているので、せめて、ニュース報道程度の正確さで書いて欲しかった。