領土問題参考書

山田吉彦/著『国境の人びと: 再考・島国日本の肖像』 新潮選書(2014/8)


  

 著者は、日本の領土問題、特に尖閣海域問題で執筆も多く、また、テレビ出演も多いので、著者の見解を知っている人は多いと思う。

 本の内容は、領土問題を扱ったものと言うよりは、日本の国境地域のようすや、人々の生活を記載している。多くは、著者の取材に基づいた記述と思われる。このため、領土問題を政治・歴史的側面から考えるのではなくて、日本の国境地域の現状について、考える上で、参考になるだろう。気楽に読める内容になっている。

 著者は海洋政策が専門であり、尖閣問題に対する著書は多いけれど、竹島問題や、北方領土問題、これらの歴史的経緯については、専門外なのだろうか。P70に『竹島の江戸時代までの呼称は、松が生い茂っていることから「松島」だった』とあるが、これは、本当だろうか。竹島は、岩島なので、松は、あまり生い茂っていない。
 国後島の記述(P87,P88)にも疑問がある。著者は、国後島が発展から取り残され、生活が非常に厳しいように書いている。著者が取材した時はそうだったかもしれないが、メドベージェフの来島・クリルプロジェクト以降、急速にインフラ整備が進んでいるので、本書の記述は、時代遅れではないだろうか。北方領土の発展に比べ、根室は寂れるばかりで、人口減少・小学校の廃校など、暗い話題ばかりが目につくが、本書には、そういうことは書かれていない。

 尖閣は国が買い上げたが、元・尖閣所有者だった栗原氏が、最初に買い上げを言いだした東京都ではなくて、国に販売した理由は定かではない。本書P20では「地権者の気持ちは、島に多額の購入費用を提示する国への売却に傾いていた」としている。

 本書は決して中立的観点ではなくて、日本や右系の人たちに都合のよい記述に感じる。それはそれとして、日本の国境問題を理解する上で、気楽に読むのに、一定の価値はある本だと思う。


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