尖閣問題参考書

笘米地真理/著『尖閣諸島をめぐる「誤解」を解く 国会答弁にみる政府見解の検証 』日本僑報社 (2016/7)

 
 現在、日本政府は「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない」と説明している。このため、多くの日本人は、昔から日本はこのように主張してきたのだろうと思っている。

 本書は著者の修士論文に加筆したもの。日本政府の尖閣に対する国会答弁を中心に、日本政府の尖閣主張の変遷を解明した。その結果、戦後、日本政府が尖閣領有を主張するのは、周辺海底で原油の埋蔵が推定されるようになって以降のことで、それ以前、日本政府は尖閣をよく知らなかったことや、固有の領土との説明をしていないことを明らかにしている。
 本書は学術論文がベースとなっているので、内容も学問として事実を解明することが目的であって、一方的な主張をするものではない。出典も詳細に記されている。

 
 本書、第一章は国会答弁を調査することにより、日本政府の尖閣の説明の変遷を解明している。ここでは、日本政府が尖閣の領有を主張するようになるのは、石油資源問題との関連が最初であることが示される。
●1955年2月 立川漁政部長
 ヘイル演習場と漁釣島だろうと思います。
●1955年3月 伊関国際協力局長
 沖縄の南でございますね。私の方もあの点は詳しいことは存じていません。
●1955年7月 中川アジア局長(第三清徳丸事件の答弁)
 琉球の一番南の方の台湾に近い島、非常に小さな島のようでありますが、武装した船によって・・・。
●1955年12月 重光外相(第三清徳丸事件の答弁)
 この問題が今日わが方の希望するように解決したという報告をまだ受けておらぬことを遺憾といたします。
●1967年6月20日 塚原総務長官(尖閣に台湾人が住み着いたとの報道に関して)
 新聞で見た程度でありまして、私は何らの報告を受けておりません。
●1967年7月 佐藤首相(尖閣に台湾人が基地を設けているようだとの件に関して)
 これはやはり施政権者から話さすのが本筋だ、かように思います。
●1968年8月 東郷アメリカ局長(尖閣に台湾人が基地を設けている件に関して)
 尖閣列島その他の領海侵犯の問題については、・・・米政府当局に対しまして善処方を申し入れてきておるわけでございます。・・・今日まで満足な結果はまだ得られておりません。

 尖閣周辺の海底に、大量の石油が存在する可能性がわかると、日本政府はにわかに尖閣の領有を主張するようになった。

●1970年4月 山中総務長官
 石油資源の問題に関連をいたしましては、尖閣列島の海底資源の問題がございます。・・・私どもとしては、明らかに石垣島に属する島でございまするし、それらの点については、資源について、二百メートル以上でありますといろいろと議論も出るかもしれませんけれども、大体において異論は出ないものという判断でもって進めておる次第でございます。
●1970年8月10日 愛知外相
 尖閣列島については、これがわがほうの南西諸島の一部であるというわがほうのかねがねの主張あるいは姿勢というものは、過去の経緯からいいまして、国民政府が承知をしておる。

   以降、日本政府からは、一貫して日本の領土であるとの主張が続く。

 第二章は1970年以降どのような経緯で日本の領土主張がなされてきたかを文献調査により明らかにしている。それによれば、国士館大学教授・奥原敏雄らによる南方同胞援護会「季刊沖縄第56号」の研究が元になっている。また、日中間での棚上げ合意があったことを説明している。

 第三章では、日本政府の公式見解と実務対応の相違、および「固有の領土」論の問題点について記述されている。
 最終第四章では、尖閣問題の解決策の提言。 


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