寛永通宝の海外流出
鎌倉・室町時代には、中国から日本へ大量の銅銭が渡来し、日本の貨幣経済の発展に寄与したが、江戸時代になると、逆に日本から中国やベトナムへ銅銭が流出している。長崎貿易銭は、日本からの銅銭を輸出しようとしたオランダ人商人の求めで鋳造されている。
寛永通宝は日本国内の流通を目的に造られた貨幣であり輸出は禁止されていたが、利益があるならば、輸出を手がけるのが商人の常。中国大陸には寛永通宝が持ち出された。このため、現在、中国各地で寛永通宝が出土している。
上の図は、三宅俊彦/著『中国の埋められた銭貨』(同成社 2005/01)に示された「寛永通宝の発見例」。(見やすいように色を付けています。)中国全土の広い範囲にわたり、寛永通宝が発見されていることが分かる。
このほか、カムチャツカ南部、北千島などでも、寛永通宝が発見されているので、長崎経由と北海道経由の輸出があったのだろう。
寛永通宝が見つかったからといって、そこに日本人が進出していたと軽率に即断することは出来ない。
参考文献
三宅俊彦『中国の埋められた銭貨』同成社 (2005/01)
松浦章『清代浙江乍浦における日本貿易と沿海貿易の連関』東アジア文化交渉研究 (2008.03)
北方地域出土の寛永通宝
寛永通宝は中国各地で出土しているけれど、カムチャツカや北千島でも出土している。
千島列島北部:
馬場脩による1933年〜1938年の発掘調査で、3箇所から寛永通宝が発見された。函館市北方民族資料館で時々展示される。
・占守島別飛土人墓地裏手砂丘貝塚で宝永丸屋銭を発見(注)
・幌筵島樺里弟11号住居跡で寛永越後高田銭を発見
・幌筵島武蔵湾貝塚で元文高津新地銭を発見
(注)菊池俊彦の本では「宝永丸屋銭」となっている。
左写真:占守島別飛のタグ有り
中左、中右写真:タグなし
右写真:幌筵島武蔵湾貝塚のタグ有り
上の写真は、函館市北方民族資料館で展示されていた馬場脩コレクションで、占守島・幌筵島で採取した十字架。
カムチャツカ:
1910年ごろ、クリル湖付近で3枚の日本貨幣が発見された。3枚とも寛文期の寛永通宝(文銭)。
1970年代、カムチャツカ南端のロパトカ岬のロパトカT遺跡の住居跡上層貝塚で寛永通宝銅銭1枚が発見された。
1970年代、カムチャツカ東岸のジュパノボ遺跡で15枚の寛永通宝が発掘された。このうち6枚は寛文期の寛永通宝(文銭)、残りの9枚は裏無文の寛永通宝。
松花江流域
アムール川最大支流の松花江流域でも、寛永通宝が発見されている。
南樺太 東多来加遺跡
1937年、岡正雄・馬場脩の調査で、寛永通宝(元文横大路銭)が発見された。ここでは、清朝銭の嘉慶通宝・乾隆通宝、宋銭の元祐通宝も発見されている。
参考文献:
『北からの日本史 第2集』北海道・東北史研究会/編 三省堂(1990)
『北東アジア古代文化の研究 』菊池俊彦/著 北海道大学図書刊行会 (1999)
『松花江流域出土の「寛永通宝」、その歴史的背景』榎森進/著 東北学院大学東北文化研究所紀要(1999)
岡正雄・馬場脩『北千島占守島及び樺太多来加地方に於ける考古学的調査予報』(民族学研究)(1938)
北方地域での銭貨の使用目的
北方諸民族の間に、貨幣経済が起こっていない時代に、銭貨はこれら地域に渡来している。古い時代のものとしては、北海道千歳市ウサクマイN遺跡から、富壽神宝とオホーツク式土器が出土している。富壽神宝は皇朝十二銭の一つで嵯峨天皇の818年に鋳造された銭貨。
これらの銭貨は、アクセサリー、お守り、コレクション的に使用したものだろう。
上の写真は、厚岸郷土博物館展示の「針入れ」。先端に寛永通宝四文銭(おそらく鉄銭)が付けられている。
写真は、北海道平取で、民族学者V.N.ワシーリーが収集した首飾りで、サンクト・ペテルブルグのロシア民俗学博物館の収蔵品。先端に、寛永通宝が付いている。(平成17年に北海道開拓記念館・川崎市民ミュージアムで開催された展示会の図録に収録された写真)
中国や日本でも「絵銭」と言われる流通を目的としない銭のようなものが作られた。日本では江戸時代に盛んに作られているが、現在でも作られ、お守りやキーホルダーなどとして使われている。
絵銭の絵柄には、貨幣を模したもののほか、「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」などの文字や仏画、七福神など縁起の良い絵柄のもの、男女の性行為など、様々なものがある。左の写真は、猿が馬を曳いている絵柄。
このように、中国や日本でも流通を目的としない銭が作られているのだから、アイヌ社会において流通を目的としない銭が存在したことは驚くに当たらない。
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最終更新 2017/6